週末の薬指

「だから、それがわかんない」

どうして、第三者の夏弥が巻き込まれるのか、わからなさすぎる。

「認めなきゃ引退するって事務所を脅して、梓は隆平と結婚する事を許してもらってたんだよ。スポンサーやら関係者にも長い時間をかけて隠密に根回しをして、さあ入籍だっていうときにこの騒ぎだから慌てたんだ。
CM契約の関係で、その契約が切れるまでは結婚できないってのがあったから、隆平の存在がばれるのはまずかったんだ。で、前に噂になった俺をカモフラージュにしてしばらく乗り切れば、沖縄のCM撮影で再びの熱愛だとか騒がれて、隆平の存在は隠せる。そして、慎重には慎重をって考えで、何もかもが落ち着いて入籍を終えるまでは『住宅会社の営業マン』が噂の相手だという事で乗り切ろうって段取りだ」

わかったか?と不安げに私を見つめる夏弥。

夏弥は美月梓の恋人ではないし、彼女との関係は何となくわかった。

私にはよく理解できない芸能界の事だし、彼女にも彼女の想いがあるんだろうけど、

「なんて人騒がせな美人さんだろう……」

「え?」

「もしかして、あの日夏弥をマンションの下で待ってたのってその事を頼みに来たの?」

「正解。あの日は驚いたせいもあって、俺は話も聞かずに追い返したんだけど、そのあと事務所を通じて話があったんだ。
昔俺に振られて落ち込んでる時に、仕事で一緒になった隆平が慰めてくれて付き合うようになったってのもその時に聞いて、で、俺にとっても大切な同期の隆平だし、一肌脱ぐことにしたわけだ」

わけだ……って。

簡単に言うけれど、ここ最近の私の気持ちの浮き沈みをどうしてくれよう。

本気で悲しかったし切なかったのに。

それでも夏弥が愛しくてたまらない私って、どこまでこの男にやられてるんだ……。
< 221 / 226 >

この作品をシェア

pagetop