週末の薬指
遅刻しながらも、どうにか大通りを走る車内には、ふわりふわりとまるでピンクの空気が漂っていて、これから仕事だという事が信じられない。

このまま夏弥の側にいて甘えていたいな、と弱い私は誘惑するけれど、そんな気持ちを押しやって。

「会社まで送ってもらってごめんね」

と普段と同じ口調を意識しながら運転席の夏弥に声をかけた。

くすりと笑った夏弥は、

「このまま、どっかに行きたい気分だよな。会社なんか行かずに温泉にでも行くか?」

からかうような返事。

「いいな、温泉。夏弥とゆっくり出かけたい。若い子たちみたいに遊園地とかデートらしいデートもしたいな」

「遊園地か、何年行ってないだろ。大学生の時あたりから行ってないな。……今から行くか?」

「え?行きたいけど……今日はやっぱり無理。待ったなしの仕事が山積みだから這ってでも行かなきゃ」

「俺も、だな。今日は午後から病院と併設する家の打ち合わせに行くんだ。結構おしてるから俺も休めないか」

二人で小さくため息を吐いて、そして一緒に笑った。

私も夏弥も仕事に追われて忙しい。

これから結婚式を挙げるのなら、時間的にも体力的にもかなりきつい毎日になるんだろうと、簡単に予想できる。仕事の合間に二人の毎日を送ることになるんだろうな。

夏弥にとって週末は休日ではなく営業日だから、二人そろっての週末もゆっくりできるとは限らない。
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