週末の薬指

2

翌日、会社で制服に着替えていると、周りからの視線がやたらと気になった。
直接声をかけてくる人はいないけれど、ちらりちらりと視線が向けられているのはわかる。
普段から、誰とでも心を開いて明るく付き合っているわけではない私に、個人的な事を聞いてくる同僚は少ない。
みんな、私を気にしながらもそれだけで、色々想像しているに違いない。

私の首筋にはっきりと咲いている赤い華を見ながら。

私に赤い華が咲いていても、大して周りに影響はないだろうと、軽く考えていたけれど、甘かった。
更衣室から自分の部署に向かう途中、同期の弥生ちゃんにつかまった。

「ちょっと来てよ」

会議室に連れ込まれた私は、途端に弥生ちゃんからの視線にさらされた。
じっと首筋を見て、小さく笑ってる。
どこか意地の悪い笑顔はいつもだけど、何だか今日は悪魔ぶりが強い。

「へえ、噂は本当だったんだね。花緒がキスマークつけて会社に来たって話、結構広まってるよ」

「は?まさか、私の事ぐらいで、こんな朝早くから噂になんてならないでしょ」

驚く私を予想していたのか、弥生ちゃんはふふんと笑って。

「それがそうでもないんだな。朝エレベーターで一緒になった人達が驚いて、次に更衣室で一緒になった人達が確認して。花緒に恋人ができたって話は既に今日の話題第一位だね。で、結局真相はどうなの?」

「第一位って言われても、え?なんで?私の事なんて、特に話題になんてならないでしょ」

「なるなる。恋人に捨てられてから一切男の噂がなかった傷心の美女に新しい恋人なんて、いい暇つぶしの話題になるよ」
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