週末の薬指
……どうしてだろう。
好奇心に満ちながら、無遠慮な問いが落とされる事も覚悟していたけれど、決してそんな状況は生まれなくて、遠目から私をうかがっている、そんな周囲の視線ばかりを感じた。一日中。

そんな周囲に違和感を覚えて、終業後に弥生ちゃんを食事に連れ出した。
毎日残業で深夜まで働いている私だけれど、さすがに普段と違う空気の中で仕事をするには限界がある。
定時内でどうにか仕事を切り上げて、帰る事にした。

「みんな、優しそうに笑ってるの、おかしくない?」

会社の近くにあるお店でパスタを食べながら、弥生ちゃんに聞いてみる。
今日一日感じていた違和感、その正体を知りたい。

「優しいことが、おかしいの?」

くすくすと笑う弥生ちゃんは、手元にあるワインを飲み干して、ボトルから新しく注いでいる。
弥生ちゃんの満足げな表情は、ワインを前にするといつも浮かべるものだ。
本当においしそうに食べて飲んでいる。
悩みばかりのわたしから見れば、本当にうらやましい。

「優しくされる事は、もちろんうれしいよ。でも、私のキスマークの事、気づいてるはずなのに、好奇心よりも、なんていうか、ほっとしたっていうか、穏やかっていうか。
妙に嬉しそうな感じもあって、おかしいなって感じ」

思い返すように、ゆっくりと弥生ちゃんに話しながら、私も少しだけワインを口にする。
私も弥生ちゃんもどちらかというと白でさっぱりとしたワインを好む。

どんな料理に合うかなんて考えずにいつもそうだ。食の好みも似ていて、行きたいお店で意見が分かれることも少ない。

本当、貴重な親友。

私に対して、厳しいことでさえズバズバと言葉を投げてくれる彼女には、裏表もなくて信じられる温かさが感じられるせいか、私の気持ちも緩む。
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