週末の薬指
私を見下ろすように立つ瀬尾さんは、私の肩に手をのせると

「恋人が何人もいるような印象を与えるらしい、瀬尾です」

低い声で弥生ちゃんにそう言った。

苦笑しながらの言葉は、瀬尾さんの怒りを見せているようで、どう反応していいのかわからない。

瀬尾さんが近くにいるとは思わず、私と弥生ちゃんが安易に話した言葉によって、確かに瀬尾さんは傷ついている。

肩に感じる瀬尾さんの手からは、温かさと微かな震えが感じられる。その震えはきっと、私の言葉が原因だ。

「あの、えっと、食事に来られたんですか」

何か言わなくちゃ、と焦る気持ちが強いせいか、つまらない質問をしてしまった。

食事に決まってるのに。

「ああ、仕事終わって、飲みを兼ねて。花緒と……」

瀬尾さんは、視線を弥生ちゃんに向けた。

首をかしげてる様子はあまりにも格好よくて、きっと店内の女性の気持ちをぐっと引き寄せているはず。

相変わらず私の肩に置かれた手に集まる厳しい注目に気づいているのかいないのか、時々私にも意味深な瞳を落とす。

まるで私の体に埋め込むような甘い力。

瞳から注がれる重みが私の鼓動を跳ね上げる。
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