週末の薬指
「おばあちゃん?ただいまー」

ゆっくりと、人の気配がするリビングに入ると。

「あら、お帰り。今日はどうしたの?体調でも悪いの?」

心配そうな声でおばあちゃんが私の側に駆け寄ってきた。

「こんなに早く帰ってくるなんて、どうしたの。熱でも……」

私の額に手を当てるおばあちゃん。

「体調が悪いわけじゃないから大丈夫だよ。今日は早く仕事が終わっただけ」

おばあちゃんの手を額からそっと離すと、思わず苦笑してしまう。そして、普段そんなに遅くに帰ってたんだと実感して肩をすくめた。

「そう?ならいいんだけど。早く帰って来るなら来るで、電話くれたらいいのに」

「ごめんごめん。今度からはそうするし……」

そう言う私に複雑そうな顔をするおばあちゃんに、何故か違和感を感じる。
居心地悪そうに落ち着かない様子。
いつもにこにこと自信に溢れているおばあちゃんらしくない様子に気が付いて、ふと視線に飛び込んできたのは。

「こんにちは」

ソファに座っている男性。
仕立ての良さそうなグレーのスーツを着ているその人は、一瞬見ただけでも整っているとわかる顔に笑みを浮かべて立ち上がると、軽く頭を下げた。
180センチはあるに違いない長身はモデルのように見える。

「あ……こんにちは」

誰だろう、初めて見る人だと思うけど。
こんなに格好いい人に会った事があれば覚えている筈なんだけど、記憶にない。
首を傾げながらおばあちゃんに視線を移すと、困ったように口を歪めている表情。
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