週末の薬指
瀬尾さんが私を家まで送ってくれるという、予想外の展開が、私の心を浮足立たせる。

そんな甘い感情が、私の中にまだ残っているんだと気づくと、少し切なくなる。

甘い感情の向こうにある切ない未来を予想してしまって、自然と気持ちを引き締めてしまう。

瀬尾さんの部下のみんなはカラオケに行くらしく、何故かそのメンバーの中には弥生ちゃんも入っていた。

いつの間にみんなと仲良くなったのか、違和感もなく楽しそうに紛れこんでいた。

『私がダメだと判断したら、即花緒との付き合いはストップさせますから。
……花緒を泣かせたら、瀬尾さんの会社に乗り込んで水ぶっかけますから』

お店を出る間際の捨て台詞。

笑顔の弥生ちゃんだったけど、目は笑っていなかった。
低い声にはそれが本気だと知らしめるに十分な迫力があって、私の方がおろおろした。

逆に、弥生ちゃんに睨まれている瀬尾さんは落ち着いて頷くだけ。
口元には穏やかな笑みも浮かんでいて、弥生ちゃんの言葉に動揺する事もなく、私の肩を抱いたまま小さく頷いて。

『花緒が泣くことは、二度とない』

ゆっくりと、まるで私に言い聞かせるような声が、私の体温を一気に上げた。

そして、瀬尾さんの言葉にとろけそうで、足元にも力が入らなかった。
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