週末の薬指
俯いて、地面の模様をぼんやりと見ていると、柏木さんと呼ばれた女の子が口を開いた。

「……あなたなんて、すぐに飽きられます」

「は?」

低い声は、微妙に強さがよみがえっていて、私を睨む視線にも意地の悪さのようなものが帰ってきていた。柏木さんは口元を歪めながら、小さく息を吐くと。

「今まで課長が付き合ってきた女性はみんな、自分にも仕事にも自信があって、ちゃんとまっすぐに立って生きてる人ばかりでした。
あなたは課長の気まぐれに振り回されてるだけで、自分の意思も何も見せていない。
課長の事を好きなのかどうなのかもよくわからない。
婚約者だと言われた時も不安げに首を傾げていたし、決してそれを喜んでいなかった。
……違いますか?」

きっと、必死なんだろう。
瀬尾さんに気持ちを拒まれた上に、婚約者だと私を紹介されたんだから、震えながらでも思いを口にせずにはいられないんだろうと、胸が痛む。
その痛みは決して彼女への同情や気遣いからくるものではなくて、私の気持ちの曖昧さを見透かされた切なさからくるもの。曖昧で不確実な自分の気持ちがそこまで露わに出ていたことへのショックもある。
何をどう答えていいのか、頭は混乱して、いろいろな言葉が浮かんでは消えていく。

じっと黙り込んでいる私に呆れたような柏木さんは、言葉を続けた。

「私は……課長が好きです。私の気持ちは受け入れてもらえなかったけど、だからと言ってあなたが課長にふさわしいとも思えない。課長を大切にしてくれるとも感じられないし、あなただって課長の隣にいても幸せな顔はしていない。
……梓さんのような、見た目も地位も、課長への気持ちも、一流の女性しか、課長と一緒に幸せにはなれない」

「……梓さん……」

「そうです、課長と一緒にいていいのは梓さんのような」

「柏木っ、的外れなことばかり言うなよ。俺の側にいて欲しい女は俺が決める。
少なくともあの女じゃない。俺が結婚して側にいたいのは花緒だ」

いつの間にか戻ってきた瀬尾さんが、怒りを隠そうともしない表情で柏木さんに大声をあげている。
眉を寄せて肩を震わせている姿からは、本気の気持ちが見えて、私の事を守ってくれていると、感じた。

「花緒がどう思っていようが、俺が花緒と結婚したいと思ってるんだ、彼女を不安にさせるような事は言わないでくれ」

静かな怒気を含んだ声でそう告げた後、瀬尾さんは私の肩を引き寄せた。

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