週末の薬指
それからすぐにタクシーをつかまえて、瀬尾さんは乗り込んだ。押し込まれるように私も乗せられて、ただただ戸惑った。

『明日土曜日だから、休みだろ?うちに来ても大丈夫だよな。外泊、できる?』

タクシーに乗り込んだ後でそんなことを言われても、もう車は瀬尾さんの自宅に向かっているのにどうしようもなかった。

どうしようもないと、私が諦める事を狙っていたのかもしれないけど。

私は小さく苦笑した後、少し緊張している瀬尾さんに軽く頷くと、おばあちゃんに電話した。

嘘はだめだと小さな頃から叩き込まれているせいか、ありのままをおばあちゃんに告げた。

『瀬尾さんの部屋に泊まるかもしれない』

そこまではっきりと言う私に驚いた瀬尾さんは、私の顔をまじまじと見つめた。

『後で後悔するような事はしないようにね』

瀬尾さんと違って、私の言葉に全く動じないおばあちゃんに『わかってる』と告げて電話を切ると、私を見つめたままの瀬尾さんが固まっていた。

まさか私がおばあちゃんに正直に言うとは思っていなかったようで、それがなんだかおかしかった。
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