週末の薬指
「おばあちゃんの知り合いの方?」
「そうなんだけどね、えっと、知り合いっていうか……」
口ごもるおばあちゃんは、うまく言葉が浮かばないように、そして焦っているように俯きながら男性をちらっと見た。
まるで『どうしよう』と助けを求めるような仕草に、私の戸惑いは更に大きくなる。
この男性は、一体、誰なの?
そんな私の訝しげな思いに気付いたのか。
「『佐賀美住宅』の瀬尾と申します。このお住まいをお建てになった時の担当営業です」
にっこりと笑い、すらすらと話すその声は、営業と言うだけあって滑らかで、人当たりの良さが前面に出ている。どこか作り物っぽく思えるのは、私が若くなくて世間ずれしてしまってるからなのか……。
男前の顔を向けられても、どこか信用できない……とはいえ、おばあちゃんとは親しい距離も感じるし、悪い人ではなさそうだ。
「こんにちは。孫の木内花緒です」
軽く頭を下げた。
どうして住宅会社の人が今頃?
この家が建ったのは7年ほど前のはずで、今更何かあるのかな。
「おばあちゃん?どうして住宅会社の人がわざわざ……?」
「あ、それはね……えっと……」
苦しげに俯いて、どうしようかと悩んでいるおばあちゃん。
何か言いにくい事でも抱えているようで、一層私の不安は大きくなる。
この男性、何かおばあちゃんにひどい事でもしたのかな……そんなに悪い人には見えないんだけどな。
「あの……何か、おばあちゃんに用があるんでしょうか?」
知らず知らずきつい口調になってしまったけれど、構う事なく問いかけると、傍らのおばあちゃんが慌てたように私の腕を掴んだ。
「ち、違うの、おばあちゃんが瀬尾さんに来てもらったんだから、用があるのはおばあちゃんなの」
慌ててそう言うおばあちゃんの言葉に驚きながら、瀬尾さんという男性を見た。
苦笑しつつ、小さく息を吐いた瀬尾さんは
「キッチンのリフォームを考えてらっしゃるようですよ。あなたの為に。……花緒さん」
『花緒さん』
甘く意味ありげな声音。そして見つめられて。
射るような強い視線に捕まったような感覚に包まれた私は、一瞬で固まった。
営業だというから慣れてるんだろうけど。
優しい声と瞳を向けられると、今まで色々経験もして、若くない私でさえ、自分がとても特別に思われていると勘違いしそうになる。
やばいやばい。
相変わらず私を見つめ続ける瀬尾さんに気持ちが揺れないよう、唇をかみしめた。
そうしてしまうほど、瀬尾さんは魅力的で、私の鼓動はとくとく跳ねていた。
「そうなんだけどね、えっと、知り合いっていうか……」
口ごもるおばあちゃんは、うまく言葉が浮かばないように、そして焦っているように俯きながら男性をちらっと見た。
まるで『どうしよう』と助けを求めるような仕草に、私の戸惑いは更に大きくなる。
この男性は、一体、誰なの?
そんな私の訝しげな思いに気付いたのか。
「『佐賀美住宅』の瀬尾と申します。このお住まいをお建てになった時の担当営業です」
にっこりと笑い、すらすらと話すその声は、営業と言うだけあって滑らかで、人当たりの良さが前面に出ている。どこか作り物っぽく思えるのは、私が若くなくて世間ずれしてしまってるからなのか……。
男前の顔を向けられても、どこか信用できない……とはいえ、おばあちゃんとは親しい距離も感じるし、悪い人ではなさそうだ。
「こんにちは。孫の木内花緒です」
軽く頭を下げた。
どうして住宅会社の人が今頃?
この家が建ったのは7年ほど前のはずで、今更何かあるのかな。
「おばあちゃん?どうして住宅会社の人がわざわざ……?」
「あ、それはね……えっと……」
苦しげに俯いて、どうしようかと悩んでいるおばあちゃん。
何か言いにくい事でも抱えているようで、一層私の不安は大きくなる。
この男性、何かおばあちゃんにひどい事でもしたのかな……そんなに悪い人には見えないんだけどな。
「あの……何か、おばあちゃんに用があるんでしょうか?」
知らず知らずきつい口調になってしまったけれど、構う事なく問いかけると、傍らのおばあちゃんが慌てたように私の腕を掴んだ。
「ち、違うの、おばあちゃんが瀬尾さんに来てもらったんだから、用があるのはおばあちゃんなの」
慌ててそう言うおばあちゃんの言葉に驚きながら、瀬尾さんという男性を見た。
苦笑しつつ、小さく息を吐いた瀬尾さんは
「キッチンのリフォームを考えてらっしゃるようですよ。あなたの為に。……花緒さん」
『花緒さん』
甘く意味ありげな声音。そして見つめられて。
射るような強い視線に捕まったような感覚に包まれた私は、一瞬で固まった。
営業だというから慣れてるんだろうけど。
優しい声と瞳を向けられると、今まで色々経験もして、若くない私でさえ、自分がとても特別に思われていると勘違いしそうになる。
やばいやばい。
相変わらず私を見つめ続ける瀬尾さんに気持ちが揺れないよう、唇をかみしめた。
そうしてしまうほど、瀬尾さんは魅力的で、私の鼓動はとくとく跳ねていた。