週末の薬指
「……っ」

そんな私の体を抱き寄せて、ぐっと取り込んでくれた夏弥さんは私の首筋に顔をうずめてその吐息を何度も落とした。

抱きしめられる強さに少しずつ気持ちを落ち着かせて、今は、ちゃんと生きていると実感する。

あの頃の私じゃないんだと、夏弥さんの胸の中で理解……できた。

「俺は、泣かせない。花緒を大切にする」

その言葉を、信じられらたどんなにいいだろう。

この部屋の鍵を、素直に受け取れば、それが叶うんだろうか。

これまでずっと求めていたものを手にすることができるんだろうか。

悩み続け、痛む心に向き合いながら。

私を大切に思ってくれているに違いない温かい言葉を何度もかけてくれる夏弥さんの胸の中で、

「夏弥。夏弥……夏弥、夏弥、夏弥……」

呼び捨てで、そう何度も繰り返しながら、私の気持ちは大きく揺れていた。
< 60 / 226 >

この作品をシェア

pagetop