週末の薬指
一泊分の着替えを詰めただけの鞄はやはりコンパクトに仕上がった。

もともと荷物を多く持たずに旅行に行く私だから、夏弥さんの家に行くくらいの準備はあっけなく終わってしまう。

化粧道具だって必要最低限。いざとなればすっぴんでもいいし、コンビニで調達もできる。

普段の旅行準備と変わらない私の様子に、『あら、やっぱり。女終わってるわね』バッサリと厳しい言葉をかけてきたのはおばあちゃんだ。

煮物やサラダ、フルーツの詰め合わせ。

夏弥さんに食べてもらいなさいと持ってきてくれたのはいいけれど、私の部屋に入ってきた途端に眉をひそめて、ため息もつかれた。

「部屋着はこの前おばあちゃんが買ってきたシルクのものがあったでしょ?会社に着て行く服や通勤用の鞄も用意できてない。
……インナーだって、レースがついてるとか脇がリボンになってるとか、瀬尾さんが喜びそうなデザインの方がいいのに。こんなあっさりしたものばかり……」

「お、おばあちゃん?」

「別に初めて男の人の部屋に泊まるわけじゃないんだから、瀬尾さんが好みそうなものをちゃんと用意しなさいよ。瀬尾さんじゃなくっても、この鞄の中身じゃ戦意喪失だね」

「戦意喪失……」
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