週末の薬指
ここ数年、どれだけ手を抜いてたんだろう。おばあちゃんが言うように、女終わってるかも。

「どうせ、月曜日の朝も瀬尾さんの家から仕事に行く事になるんだから、その準備もして行きなさい。
わざわざ家に戻って、また瀬尾さんちに行くなんて面倒でしょ?」

「え、明日の晩には帰ってくるつもりなんだけど」

おばあちゃんの言葉に驚いていると、ふふん、と小さく笑われて

「それは無理だね」

あっさりと言い返された。どこか自信に満ちたおばあちゃんの表情を見ながら、そうなのかな、と首を傾げた。

「瀬尾さんは、そんな生ぬるい男じゃないよ。好きな女を簡単に手放すわけがない」

「て、手放すって……家に帰るだけでしょ」

「瀬尾さんの手元にいなけりゃどこでも同じだよ」

「……」

おばあちゃんは、私のクローゼットから見繕ってきた幾つかの服を鞄に詰め込むと、小さく息を吐いて私に視線を向けた。

おばあちゃんから落とされた言葉に戸惑っている私の表情に、何故かくすっと笑いを漏らして。

「女だよ。女。それを忘れちゃいけないよ。昔男に捨てられてた事にとらわれ過ぎて、自分が女であることまであきらめちゃだめだよ。たとえ99人の男に悲しい思いをさせられても、たったひとりの男が花緒を愛してくれたら十分じゃないか。……たったひとりを見逃さないように、ちゃんと女でいなさい」
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