週末の薬指
普段と変わらない、淡々とした声音が私の心にすとんと落ちてくる。

困った時や苦しい時に、すっと手を差し伸べてくれるわけじゃない。

どうしようもなく俯いている時に、優しい言葉をかけてくれるわけでもない。

厳しい言葉で叱っては、私が自分で前に進める道筋をつけてくれるだけ。

「花緒の出生の事情は変えられないんだ。その事で嫌な思いもしてるだろうけど、そんな事情なんてどうでもいいって思わせるくらい、いい女になりなさい。誰もが欲しがる女になりなさい」

凛とした表情の中にある、私への愛情と、隠しているに違いない気遣い。

私のこれからを心配していないわけがない。

私の母が遺した、私が背負う負の人生を、嘆いたに違いない。

根っからの明るさと強さの中に隠して、そんな思いを私に見せる事は滅多にないけれど。

目の前のおばあちゃんからは、口調や言葉とは裏腹な、私の将来を気にかけてやまない心細ささえ見えてくる。

おばあちゃんの、普段と何がどう違うというわけではないけれど、向かい合って、顔を見合わせて。

70代だというのに艶のある肌とこしのある髪。

手入れの行き届いた桜色に塗られた爪。

背筋がきちんと伸びているのも綺麗だ。

「おばあちゃん、まだまだ女だね」

思わずそう呟いた。

「何を今頃」

呆れたような声。

「本当、今頃だね」

肩をすくめる私に、小さく笑ったおばあちゃんの目じりには細かいしわもあるけれど、それでも綺麗な顔には変わりない。

きっと、おばあちゃんなりの努力をして、今の美しさを保っているに違いない。
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