週末の薬指
* * *
『6時頃には家に帰る』
そんな短いメールを受け取ったのは、ちょうど私が夏弥さんのマンションの玄関に着いた時。
メールを読んで、知らず知らず頬が緩んでしまうのを抑えられなかった。
あと1時間もすれば夏弥さんに会えると思うと、大きな荷物も苦にならない。
おばあちゃんに色々詰め込まれた鞄を肩にかけなおして、エントランスの端に向かった。
広めのエントランスには観葉植物がいくつか置かれていて、その近くに感じた人影。
視線を移すと、一人の女性が立っていた。
細身の長身で、水色のトレンチコートを着ている女性は、誰かを待っているようにいらいらと体を揺らしていた。
外を見ながら不機嫌そうに顔を歪めているけれど、その顔は綺麗で、まるで人形のように整っていた。
「あ……」
思わず出そうになった声を我慢して、視線を外した。
不自然にならないように歩みを進め、何も見なかったように表情を落ち着かせた。
そして、震える手をどうにかごまかし、ポケットから取り出した鍵を機械に差し込んだ。
ロックが解除されたエントランスの扉は、ゆっくりと開き、私は何かに押されるようにマンションの中に入った。
背中で閉まったガラス扉を確認し、少し息を吐きながら。
そっと今来た方向を振り向くと、相変わらず誰かを待っている女性が視界に入った。
綺麗な栗色の髪は腰までのストレート。スタイルの良さはコートを羽織っていてもよくわかる。
ぷっくりと膨らんだ唇は綺麗なピンクが施されていて。
「さすが、モデルだな」
思わず悲しい声を出してしまうほど、魅力的な女性だった。
「敵うわけないよね……」
突然重くなった鞄と足取りをどうにかこらえながら、夏弥さんの部屋へと向かう。
エレベーターを待ちながら、こぼれそうになる涙をこらえていてもやっぱり不安は満ちてきて、そっと振り返ってしまう。
何度見ても、その女性は綺麗で、かなり目だっている。
時折いらだたしげに眉を寄せるその顔もさまになっている。
そのいら立ちを彼女にもたらしている原因はきっと、夏弥さんだ。
彼女は夏弥さんを待っているに違いない。
「美月 梓……」
夏弥さんと深いつながりがあるらしい『梓さん』は、きっと彼女の事だ。
『6時頃には家に帰る』
そんな短いメールを受け取ったのは、ちょうど私が夏弥さんのマンションの玄関に着いた時。
メールを読んで、知らず知らず頬が緩んでしまうのを抑えられなかった。
あと1時間もすれば夏弥さんに会えると思うと、大きな荷物も苦にならない。
おばあちゃんに色々詰め込まれた鞄を肩にかけなおして、エントランスの端に向かった。
広めのエントランスには観葉植物がいくつか置かれていて、その近くに感じた人影。
視線を移すと、一人の女性が立っていた。
細身の長身で、水色のトレンチコートを着ている女性は、誰かを待っているようにいらいらと体を揺らしていた。
外を見ながら不機嫌そうに顔を歪めているけれど、その顔は綺麗で、まるで人形のように整っていた。
「あ……」
思わず出そうになった声を我慢して、視線を外した。
不自然にならないように歩みを進め、何も見なかったように表情を落ち着かせた。
そして、震える手をどうにかごまかし、ポケットから取り出した鍵を機械に差し込んだ。
ロックが解除されたエントランスの扉は、ゆっくりと開き、私は何かに押されるようにマンションの中に入った。
背中で閉まったガラス扉を確認し、少し息を吐きながら。
そっと今来た方向を振り向くと、相変わらず誰かを待っている女性が視界に入った。
綺麗な栗色の髪は腰までのストレート。スタイルの良さはコートを羽織っていてもよくわかる。
ぷっくりと膨らんだ唇は綺麗なピンクが施されていて。
「さすが、モデルだな」
思わず悲しい声を出してしまうほど、魅力的な女性だった。
「敵うわけないよね……」
突然重くなった鞄と足取りをどうにかこらえながら、夏弥さんの部屋へと向かう。
エレベーターを待ちながら、こぼれそうになる涙をこらえていてもやっぱり不安は満ちてきて、そっと振り返ってしまう。
何度見ても、その女性は綺麗で、かなり目だっている。
時折いらだたしげに眉を寄せるその顔もさまになっている。
そのいら立ちを彼女にもたらしている原因はきっと、夏弥さんだ。
彼女は夏弥さんを待っているに違いない。
「美月 梓……」
夏弥さんと深いつながりがあるらしい『梓さん』は、きっと彼女の事だ。