週末の薬指
「でも、花緒さんもお料理が上手だとお聞きしましたよ。だからキッチンのリフォームをされるんですよね」

「え?」

瀬尾さんの言葉に驚いて、おばあちゃんを見ると。

「あ……それはその、そうなんだけどねー。まあ、花緒のためっていうか……」

「私のため?」

慌ててお茶を飲むおばあちゃんは、私に秘密がばれて焦っているみたいにあたふたしていて、普段ののんびりと穏やかな表情からは一転、視線も泳いで落ち着かない。

「キッチンを使いやすくして……花緒が……」

「私が……何?どうしてキッチンのリフォームなんてするの?」

正直、今キッチンに手を加える意味がよくわからない。
7年前この家を新築した時からはある程度古くなっているとはいっても、十分にまだまだ使いやすいキッチンなのに。
休みの日にはキッチンに立つ私にとっては使い慣れたキッチンで、不便を感じた事なんてないのに。

「私、今のままで十分に使いやすいのに、どうしてリフォームなんてするの?」

おばあちゃんは、少しだけ後ろめたそうに口元を歪めて。

「花緒がお料理教室を開けるといいなあと思って。このキッチンに生徒さんを集めてお料理を教えたいんじゃないかなあって思ったからリフォームしちゃおうって決めて、瀬尾さんに今日来てもらったんだよ。
花緒には内緒にして驚かそうと思ったのに、今日に限って早く帰ってくるんだから計画が狂ったよ。
……まあ、ばれたんだから、いっそ瀬尾さんとは花緒が直接打ち合わせをして好きにリフォームしなさい。
その方が花緒にとっても使いやすいキッチンができあがるよ。お金なら心配ないから、好きにしなさい」

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