週末の薬指
「好きにしなさいって言われても、私がお料理教室したいってどうして……」

どうして、そんな事をおばあちゃんが知っているんだろう。
確かに、この家に生徒さんを集めてお料理教室ができたらいいなあとは思ってたけど、おばあちゃんに言った事はなかったのに。

「花緒の事なら、おばあちゃんはなんでもわかるんだよ」

ふふん、と自慢げな声。
おばあちゃんは優しく私を見つめると、

「瀬尾さん、悪いけどこれからは花緒と打ち合わせしてもらえる?
この子、それほど愛想のいい子じゃないけど、頭の悪い子じゃないから無茶な事は言わないと思うし」

突然、瀬尾さんにそう告げた。まるでそれが一番いい考えのように満足げに。

「はい、いいですよ。花緒さんが将来使いやすいように、いいキッチンに仕上げます。
それでよろしいですか?……花緒さん」

え?

突然の展開に、私はついていけないんだけど。
一体、何がどうなってキッチンのリフォームなんて話になったんだろう。
おばあちゃんは、いつから私の夢に気づいてたんだろう。
何も言ってくれなかったのに、あ、私も何も言わなかったけれど。

この家は、二人で住むには十分広いしキッチンだって使いやすい。
ただ、お料理教室をするには設備ももう少し整えないといけないし、広さももう少し欲しい。
漠然と考えていた私の気持ち、バレバレだったのかな。
私の事なら何でもお見通しのおばあちゃん。
少し、申し訳ない気持ちになる。

「花緒さん?」

「あ、はい」

穏やかに響く声。瀬尾さんが私を優しく見つめている。

「近いうちに、ゆっくりとお話しましょうか」

その声を聞いた瞬間、その目が私を射ぬいて、離してくれないような、そんな錯覚にとらわれた。

そう感じるくらいに強い瞳、だった。
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