週末の薬指
2
* * *
週明け、夏弥の部屋から出勤した。
一晩中愛された体を重く感じながらも、体中に残る名残を優しく隠して、普段通りに出勤した。
はずだったけれど、ロッカー室で着替えを始めた途端、周囲の視線を一心に浴びてはっとした。
「今日もまた、派手につけてきたわね」
既に制服に着替えていた弥生ちゃんは、苦笑しながら私の胸元をすっと指先でたどった。
「土日、二日とも?かなり愛されてるんだねー。あんな男前にこんな独占欲の花をつけられた気持ちはどう?」
「独占欲って……」
急いで制服を着る私の周りには、弥生ちゃんの声をきっかけに何人かの女の子が集まってきた。
それまで遠慮がちに私に視線を向けていたのに、まっすぐ私の花を見ようと遠慮もなく。
「木内さんにすごく格好いい恋人ができたって、先週からすっごい噂ですよね」
「私、今朝会社の近くで素敵な男性が運転する車から降りる木内さんを見ましたー。結婚はもうすぐなんですか?」
次々と浴びせられる言葉に混乱して、あたふたしてしまう。
そうか、さっき夏弥の車で送ってもらったところを見られてたのか。
会社から少し離れたところで降ろしてもらったのに。
だからこんな騒ぎになってるんだな……。
「えっと、その……確かに、恋人なんだけど……」
小さな声でそう言った途端、
『いいなー』だの『うらやましい』だの高い声が飛び交った。
その声に圧倒されて困った私は、助けを求めるように弥生ちゃんを見ると。
私の様子を面白おかしく見ていた弥生ちゃんは、小さく肩をすくめて意味ありげに笑っていた。
「花緒の恋人ってね、花緒にべたぼれで、どうしようもなく甘い男なんだよ。
一流企業で働いてるし、今度コンパでもしてもらおうねー」
そんな煽るような弥生ちゃんの言葉に周りは大騒ぎになって、そろそろ職場に散らなきゃいけない時刻になっても騒ぎは収まらなかった。
お祭り好きな弥生ちゃんは、へへへっと嬉しそうに笑って、小さくガッツポーズをしていた。
……コンパ、ねえ……。
とりあえず、しなきゃならないような雰囲気に、ため息をついた。