ゼロの行方

「大丈夫さ、こいつでいつも繋がっているから…。それに『彼女』は僕を裏切らない」
　ミサキは腕のブレスレットを差し出した。
「三原則、第一条だね」
「そういうこと、『彼女』は僕を傷つけられない」
「でも、それは愛情なのかしら？」
「プログラムなのは僕も解っている。それでも…」
「あの子はあなたを育てたロボットに似ているからね」
「うん」
「あなたは母性に植えているから」
「そうかもしれない…」
「あなたは寂しい人なのね」
「…」
　アセトの言うことは当たっていた。自分は孤独なのだ。もっと人に心を開ければいいのだが、それがうまくいかない。結局答えが見つからないまま、心は同じ所をぐるぐると回っている。答えが得られないからその気持ちをロボット（特に女性型のヒューマノイド）に求めてしまう。以前船のカウンセラーにも指摘されたことがあった。
「まぁ、焦っても仕方ないよ。いずれあなたも人に心を開ける様になるさ」
　アセトはミサキの寂しさを分かち合おうとする様に彼のグラスを持つ手に両手を添えた。　彼女はそれ以上ミサキの心の中に触れようとはしなかった。それが彼女なりの優しさだった。生まれた星を失い、同胞達を失い、宇宙を彷徨ってきた彼女にとって孤独という感情は痛いほど判っていた。だからといってそれを他人に見せたことはなかった。それは彼女の『強さ』ではなく、身を守る術だった。同情は人を傷つける。彼女は何よりもそれを知っていた。だから彼女は他人の心に必要以上に触れようとはしなかった。
「ところで船はこれからどうなるんだい？」
　アセトは不意に話題を反らせた。
「暫くは此所に留まることになりそうだよ。『レアⅡ』から収容した患者の様態が安定しなければいけなおだろうし、名にしろ感染症の正体がわからない。このまま地球に向かったら大規模な感染を起こしてしまうかもしれないから」
「じゃぁ『彼女』とも暫くはあえないね」
「いいさ、その分アセトに会いに来るから」
　ミサキのグラスが空になった。
　アセトもまた、.ミサキが心を開ける少ない存在だった。彼女からは何処か母性を感じることが出来た。それはミサキの心を充分癒していた。
　ミサキはもう一杯、アセトに求めた。