ゼロの行方

疑念

　バーナード星系の惑星『ダイダロス』から一隻のスターシップが出発しようとしていた。その名前は『ＺＥＮ』、バーナード星系では数少ない宇宙戦艦だった。
　バーナード星系は陣対が最初に接触した恒星系だった。地球に一番近いのはアルファ・ケンタウリだが、ここは三十連星の一つであるため知的生命体が生存するための惑星が無かった。
　惑星名『ダイダロス』は地球側で付けた名前だった。この星では既に自分達の呼び名があったが、連峰に属する惑星のどれもが発音することが出来ずにこの名前が共通語として広められた。ダイダロスは人類が他の恒星系の状態を探査するために送り出した最初の惑星探査機でこの星が人類にとって最初の知的生命体が生存している惑星だった。
　当時『ダイダロス』ではハイパードライブｇｓｋしは津されて間もない頃で初のスペースシップ『Ｖ６４５』が銀河に乗り出す直前のことだった。ダイダロスの人々は地球からの探査機の到着をもって最初の探査の目的地をソル西経に決め、人類は彼等と接触することとなった。
　その『ダイダロス』から地球に向けての大使が『ＺＥＮ』によって向かう所であった。「大使、お待ち申し上げておりました。ようこそ、『ＺＥＮ』へ」
『ＺＥＮ』の艦長、カロンが恭しくニクス大使をブリッジに迎えた。そこにいた全員が敬礼をする。ニクスは右手を挙げて応える。
「まぁ、そう硬くならんで下さい。これから一ヵ月間お世話になるのですから」
　カロンは噂通り穏和な性格の様だった。
　今回カロンが地球に赴くのは前任者の任期切れのための交代であった。地球とダイダロスとの間はこの五十年間友好的な関係を築いていた。主な産物が農業製品であるダイダロスは地球へ食料等の農産物を輸出し、工業惑星である地球はダイダロスに対して工業製品を輸出していた。両者の間には今のところ恵致命的な経済問題もなく、貿易は円滑に行われていた。
　従って、大使といっても膨大な責任を負っている訳ではなかった。
　ブリッジの中ではインパルスエンジンの心地よい響きが伝わってきていた。それが徐々に力強うものに変わり、発信準備が整っていくことを乗組員に知らせていた。
「艦長、インパルスエンジン出力八十パーセントです」