ゼロの行方
『タイタン』のミーティングルーム。
 ここに艦長のレナード、副長のジョナサン、医師のレイカとブリッジのメンバーが集まっていた。彼等はジョナサンがたてた仮説について話し合っていた。
「ジョナサン、今回の『レアⅡ』の感染症の件は何かの陰謀ではないかというのだね?」「はい艦長。その可能性があります。彼等はロボットを使ってこの感染症の病原体を『レアⅡ』に搬入し、感染させました」
「インフルエンザの治療薬として…」
 ジョナサンが、そしてレイカが報告した。「彼等とは?」
「まだ解りません。しかし連邦に関係していると思われます」
「その根拠は?」
「インフルエンザの治療薬の要請が連邦に対して行われていますし、『レアⅡ』に送ったのも連邦です。可能性は否定できません」
 ジョナサンの冷静な声が吸い込まれていく。事実を述べる時、彼は常に冷静だった。感情を見せることなく、時には冷たくさえ感じるほどに…。
「でも、何のためにそうしたのでしょう?」 ミサキが心に湧いてきた疑問を素直に口にした。
「感染症を起こすことが目的なら答えは一つ、『細菌兵器』ね」
 レイカがその疑問に答えた。
「だとするならこの船で生存者を運ぶということは…」
 ミサキの背筋に冷気が走る。
「彼等の思う壺、という所かしら?」
 レイカもまた、冷たい微笑みを浮かべる。
 冷たい空気が彼等を包んでいく。
 重く、暗い影が一人一人の胸の中に拡がっていく。
「しかし、患者は隔離されています。この状態を維持していれば感染の拡大は防げます」 ジョナサンは首を傾げている。
「確かにそうね。隔離したままなら拡大はしない。すると彼等の目的は達成されたということ?」
 レイカが言った時、ミーティングルームのスピーカーからルナの声が割り込んできた。「いえ、まだ始まったばかりだと思われます。『レアⅡ』のマザーコンピューターは『ゼロ計画』の第二段階への移行を告げています」
「『ゼロ計画』?」
 ミーティングルームの全員の視線がジョナサンに注がれた。
「はい、それがこの一連の出来事のコードネームのようです」
 ジョナサンが答えた。
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