ゼロの行方
 ブリッジから居住区画に向かうリフトの中でミサキはリサと向き合っていた。
「残念ね、このところ『彼女』は忙しそうで…」
 リサはそう言った。その視線は不自然なほどにミサキを見ていなかった。ミサキはその言葉に手首のブレスレットを見せて微笑んだ。
「そうね、あなた達はいつも繋がっているのだものね。少し悔しいな」
「どうして?」
「どうしってって…」
 リサは言葉を濁して俯いた。
 リフト表示が音もなく居住区の方に流れていく。想い沈黙がリフト内に流れる。
 ミサキとリサは地球圏のスペースコロニー『LーⅠ』で育った。居住区域も同じでお互い幼い頃から相手のことを知っていた。リサは美里が連邦軍に入ることを知っていた。人とつきあうことが苦手なミサキはリサにとっていつも気になる存在だった。
 その感情はいつしか暖かいものに変わっていった。だから美里が連邦軍に入ると知った時、リサも同じ進路を目指したのだ。
 二人が『タイタン』で再開できたのは、連邦軍に入って五年後だった。それまでの間、リサは胸に秘めた感情を静かに暖めてきた。だが、その頃にはミサキには『彼女』の存在があった。
 リサの心は打ちのめされた。
 五年間という空白の重さを彼女は思い知らされた。だが、リサのミサキに対する思いは変わらなかった。人から一歩離れているミサキの心を開いていこうとあの所は決心した。 やがてリフトは目的の居住区に到着し、白に塗られた扉が空気の排出音と共に左右に開いた。ミサキとリサは連れだってリフトを降りた。リサは意を決していった。
「ねえミサキ、少し時間ある?」
「うん、少しなら」
「それじゃあラウンジに行かない?少し話したいこともあるし」
 ミサキに断る理由はなかった。どうせ個室(コンパートメント)に戻っても何もすることはないのだ。『彼女』との専用込むリンクはあっても、今は作業に集中している為に繋がらない。
 それならば、この幼なじみと時間を過ごすのも悪くはなかった。
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