ゼロの行方
「あら、今日は二人なのね」 
ラウンジに入るなりアセトが二人を迎えた。彼等は揃ってカウンター席に座る。
 彼等はいつもの者を注文し、アセトがそれを二人の前に置く。まだ時間が早い、ラウンジは賑わっていた。
「それで、話って何?」
「うん、別にどおってことはないと思うんだけど…」
 そう言いながらもリサは不安そうな表情を浮かべた。彼女がそういう表情を見せるのは珍しかった。ブリッジではいつも冷静に任務をこな素様な女性だった。細かいことは余り気にしない、ポジティブなかんが絵方をする方だった。
 今、隣にいるリサにはそんな姿は見られなかった。
「私達、これからどうなるのかしら?」
 ミサキは彼女がいおうとしていることに気がついた。彼女は先ほどのミーティングルームでの会話のことをいっているのだ。
 そこで話された陰謀のこと。『ゼロ計画』ということが何を指しているのか。それらのことはリサに不安を抱かせるに充分な言葉だった。
「『ゼロ計画』って奴か…」
 ミサキも額に手を置いて考え込んだ。
 招待の見えない『ゼロ計画』、それは彼にとっても不安なことだった。ただ一つ解っていることは何の問題もなく地球に帰還するのは難しいだろうということだった。
「そう、『レアⅡ』が壊滅したことだけではなさそうじゃない?」
「ああ、僕たちが生存者を救出することも織り込み済みの様だしね」
「私、怖いわ…」
 リサはそう言うとミサキの肩に頭を乗せた。「僕だって怖いさ。だけど艦長を信じるしかないさ。これまでだっていろんな困難を乗り越えてきたのだから」
 それはリサを安心させるためと自分を奮い起こすための言葉だった。そう、『タイタン』はこれまでの旅の中で何度も困難に遭遇してきた。それでも、その度に乗り越えてきた。今度もまた乗り越えられるだろう。そう信じるしかないのだ。信じなければ自分が負けてしまう。負けてしまえば任務に差し支えてしまうのだ。
 外では土星のリングが小さな星屑となって覆っていた。それは長かった美がもうすぐ終わることを静かに告げていた。あと少し進めばふるさとに帰ることが出来る。きっと全てがうまくいく、ミサキはそう思った。
 肩に触れているリサは微かに震えていた。いくら気丈な女性でもやはり女は女だった。こういう時、すがる者が欲しいのだろう。胸の奥の不安を口にして自分の心を支えようとしているのだろう。
 ミサキはほんの少し彼女を愛おしく思った。
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