ゼロの行方
 隔離室内の備品は次々と消毒されて搬出されていく。やがて全ての備品が搬出されたころ、不意にエレナが声を出した。
「ドクター、隔離区画の壁面に使用していた強化ガラスに僅かに変質している箇所があります。」
 強化ガラスは隔離区画の壁面によく使われる材質だった。外部や内部からの衝撃に耐え、外部から内部を観察できるのがその理由だった。現在連邦の艦船に使用されている物はフェイザー銃のエネルギーさえ貫くことが困難な材質だった。
 その強化ガラスに異変があるとエレナは告げているのだ。
「その箇所を見ることは出来るかしら?」
 レイカの言葉にエレナはディスプレイを切り替え、強化ガラスの表面を映し出した。
 ディスプレイにはん滑らかな表面をした強化ガラスが映し出された。そのアングルがガラスの中央付近を映し出すと次第にズームしていった。その速度は速く、ほんの数秒で肉眼では確認できないほどの倍率になった。
 カメラは更にガラスの表面を拡大していく。そしてある時点に達した時、レイカはエレナのいう変質の意味を知った。
 拡大された映像のほぼ中央に小さな穴が幾つも空いていた。レイカは己の血の気が引いていくのを感じた。
「エレナ、この穴の大きさは?」
「直径九〇〇nm程度です。強化ガラスのこの付近に約二〇〇個程度見られます」
 レイカは『レアⅡ』でのパンデミックの理由が何であるかを悟った。
「隔離区画の撤去作業中止、医療室を完全閉鎖、内部を強制換気して!」
 レイカの叫ぶ声が医療室に響いた。
 そこにいたスタッフ及びロボットの動作が一瞬止まった。
 レイカは胸のコムリンクのスイッチを入れた。
「艦長、すぐに医療室の周辺のブロックを閉鎖して下さい!」
 レイカの叫ぶ声が『タイタン』の将来を告げる言葉となった。
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