ゼロの行方
 ロボットのメインテナンスルーム。
 ルナがメインテナンスドックに接続されて壁際に立っている。その命にミサキの姿があった。
「君が無事で良かった」
 ミサキは静かに言った。その瞳には涙さえ浮かんでいる様だった。
「イエ、完全には無事トイエマセん。言語中枢回路ニ三十九ぱーせんとノだめーじヲ受けてイマス」
 ルナの言葉は電子回路がショートする音に混ざってミサキの耳に届いた。
「それは心配しなくて良いよ。回路を取り替えてしまえばいいのだから」
「それデモ気になりマス」
 ルナの言葉には恥じらいが見える様だった。Rシリーズの中でもカスタマイズされたルナだから枯死できる芸当だった。
「気にしないことさ、僕は気にならないよ。ところで医療室では何があったんだい?君のことだから記録に残しているんだろう?」
「ハイ、ワタシの感知デキる範囲でキロクしていマす」
「そのデータは見られるかい?」
「はイ、暫くオマち下さイ」
 ルナはぎくしゃくとした動作を繰り返して回路を切り替え、メインテナンスドックの横にあるディスプレイに彼女が記録したデータを映し出した。
 それはルナという第三者の視線で見た医療室の状況だった。
 そこでは隔離区画が撤去されている最中だった。機材や備品を運び出すロボットや生存者だった者のデータを整理する者など、皆忙しそうに動いていた。白い壁に向かって消毒剤が噴霧されてもいた。レイカがそれらの作業を見守り、チェックシートの項目を埋めていた。
 そこへエレナがが近づいてきてレイカに何事か話しかけていた。
「ルナ、エレナは何を言っていたんだ?」
 ミサキは画面を停止させてルナに言った。
「ハイ、この時えれナは防護壁ニ小さな穴ガアイテいる事ヲツゲテいます」
「穴?」
「はい、ヒジョうに小さなものデす。でも、ウィルスが通過するのにハ充分な大きさです」
 ルナの言語中枢回路が幾分回復してきたのか、言葉が少しだけ聞き取りやすくなった。
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