ゼロの行方
「ウィルスが防護区画に穴を空けた?そんなこと可能なのか?」
「不可能ではないかと思いマス。生物が持つ共通点は一、細胞という構造からなる。二、外部から取り入れたものを自分の構成成分に作り替える。三、刺激に応答する。四、自分でエネルギーを転換する。五、増殖する。トイウ点ですが、うぃるすはこのうち『増殖する』トイウ点しかありません。それも限られた環境にオイテですが…」
「限られた環境?」
「細胞の中デス」
「だとするなら、防護壁に穴を空けるのなんか不可能じゃないか」
「ソウです。けれドもどくたーハ艦内に艦船が拡がるコトヲ避けるために医療室周囲のぶろっくヲ閉鎖したのです」
 そこまで言うとルナは停止させていた映像を先に進めた。
「このあと、コンピューターが自己判断して医療室を爆破しました。その時のアナウンスがこれです」
 ルナはコンピューターが発したアナウンスをミサキに聞かせた。
「ロボット工学第零条?」
「はい、ろぼっとは人類を守るということを定義した条項です。その代わりに人類を守るためならばロボットは人を傷つけることが可能になります」
「それは何故?」
「第零条が入ることによって第一条が次の様
に修正されるからです。『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。 ただし、第零条に反する場合は、この限りではない。』と…」
 ルナの言葉が以前の様に流ちょうなものに戻ってくると同時に、その氷の様な冷たさをミサキは感じた。ロボットは人間に危害を加えてはならないが、人類に危害を加えられる場合には人間に危害を加えることがあっても良い。ロボットにそこまでの権限を与えても良いものだろうか?ミサキの脳裏にそんな考えが浮かんだ。
 更にもう一つ疑問があった。
『タイタン』のマザーコンピューターに何故第零条が規定されていたのだろうか?
 通常、ロボット工学三原則は自らが考え、判断する自立型のロボットに採用されている。人が操縦するロボットなどはこのために三原則を搭載していない。同じ事はコンピューターにもいえた。それらは人間の指示により計算し、データを提供するものであり、自らが判断することはない。このために三原則は搭載されていない。
 だが、『タイタン』のマザーコンピューターは自らが判断し、第零条のもとに行動した。
 一体いつ、三原則が搭載されたのだろうか。 ミサキは背中に冷たいものが伝わり落ちるのを感じた。
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