ゼロの行方
『タイタン』のブリッジ…。
 クルーの各シートから同じ種類のケーブルが網の目のように張り巡らされており、それぞれの末端が各自のタッチ式端末に繋げられている。マザーコンピューターの監視への対策だった。閉じたネットワークを有線で繋げることでマザーコンピューターに情報が漏れるのを防いでいるのである。時にはローテクが優位に立つ場合もあるというよい見本だった。
 閉じたネットワークの中でクルー達はこれまでの出来事を整理していた。その結果『ゼロ計画』について一つの疑問が生じてきた。
 これまでの『ゼロ計画』の経緯からロボット工学三原則の第一条は偽りの情報を与えることで人間を傷つけ殺してしまうことができることが証明された。また新たに追加された第零条は人類を守るために殺人が可能であることが証明された。この場合の人類を守るという行為は『タイタン』内部でのパンデミック発生の可能性を示唆しており、これを阻止するために医療室の爆破が行われた。ただしこのパンデミック発生の可能性という情報も偽りのものであり、そのプログラムは『レアⅡ』のマザーコンピューターよりダウンロードしたデータに紛れていたことがわかった。しかし『タイタン』のマザーコンピューターは艦内にパンデミックが発生した旨の報告を連邦軍に告げており、現在艦を乗っ取って土星の衛星レアから離れて地球に向かっている。
 クルーの誰もがまだ『ゼロ計画』が進行中であり、自分たちがその渦中にいることを悟っておる。
 しかし、なぜこのような複雑な状況を作り出しているのか、それが最大の疑問であった。
 第零条の有効性を実証するのであれば、医療室の爆破ということで証明されている。従ってこれ以上計画を進める必要はないはずだった。
 だが計画は続行している。
 そして、その中の駒として『タイタン』が選ばれている。
 この疑問をクルー達が共有したとき、疑問は形をなして現れてきた。
『ゼロ計画』の最終目的は複数の殺人、埋まり戦闘行為も含めた大量の人間の殺戮が可能であるかを実証することではないかということだった。
 だが、これに抗うにも『タイタン』をマザーコンピューターから奪取する必要がある。
 レナードはそのインターフェースとしてルナを使用することを決め、ミサキにその指示を出した。
『タイタン』がハイパードライブを行うまであと一時間、時間は余り残されてはいなかっ
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