ゼロの行方
 ブリッジに入ったルナは休む間もなく通信士のコンソールに接続された。通信士のコンソールは外部との接触だけでなく艦内に走る神経系統へのコンタクトも可能なものとなっていた。マザーコンピューターに直接接続できるコンソールは通信士のものと技術者のものに限られていた。だが技術主任のデューイは機関室にいた。
 マザーコンピューターに直接接続されたルナはその回路の中に侵入していく。操舵系、戦闘系、保安系、生命維持系、重力制御系、機関系、それぞれの回路は正常に機能している。ルナはさらに深いところへ侵入していく。記憶バンク、センサー制御系、言語中枢系、それらにも異常はなかった。更に深く、更に深く、深く、深く…。
 そして基幹回路のオペレーションシステムに張り付くようにそれはいた。それはマザーコンピューターに三原則と第零条条項を挿入し、各制御系回路への正常なルートとの接続を断ち指令を出していた。それは今、ハイパードライブ航法のカウントダウンをしていた。残された時間はあと二十五分程度だった。その行き着く先はアステロイドベルトの外側、木星圏の外れだった。その空間には医療コロニーは存在していなかった。
 ルナはそれの意図するものに危険な匂いを感じた。このカウントダウンを止めなければ『タイタン』に危機が訪れるのを感じ取った。ルナはそれとの接触を図りカウントダウンを止めようとした。だがそれはルナの試みを難なく弾いてしまった。
 次にルナは基幹系、操舵系の回路とそれとの接続を断つことを試みた。しかしそれはバックアップを幾重にもとっていて回路を遮断することは困難だった。また、これらのネットワークは生命維持系の回路にも繋がっていてこれらどの回路を遮断しても生命維持系の回路が停止するように仕掛けられていた。
 従ってこの行動は第一条に違反することになる。ルナはこの試みを諦めた。
 残された道はハードウェアリセットだった。マザーコンピューターに供給されている電源を一時的に遮断することだった。これによりオペレーションシステムに取り憑いているそれを消去することが可能になるはずだった。
 ルナはその事を通信士のコンソールを通じてブリッジにいる全員に伝え、自らもマザーコンピューターの回路を後にした。
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