ゼロの行方
「副長、ハードウェアリセットにかかる時間は?」
 ジョナサンはレナードの質問を受けて自分の端末で指を走らせた。
「電源断による回路停止まで二分弱、復帰まで十二分程度が見込まれます。」
 もはやブリッジにいる誰もがマザーコンピューターの監視を意識してはいなかった。ハードウェアリセットはマザーコンピューターが唯一介入できない行為だからだ。しかしまだ安心は出来なかった。それをさせないためにマザーコンピューターが妨害してくることも考えられるのだ。作業は迅速に行う必要がある。
 レナードは自分のコンソールにある非常用スイッチを押した。するとコンソールの一部が開き、二つのスイッチが姿を見せた。一つはマザーコンピューターのハードウェアリセット用のもの、もう一つは『タイタン』の自爆用のものだった。レナードはそのスイッチを押す前にハードウェアリセットを実施することを艦内全域に告げた。
 クルーたちは自分の席にあるセーフティベルトを締め身体をシートに固定した。
 そしてレナードはスイッチを押した。
「ハードウェアリセットを実施します。指名と暗唱コードを入力して下さい」
 マザーコンピューターと同じ声が返ってくる。この回路はマザーコンピューターからは独立していた。マザーコンピューターの不測の事態から復帰させるためのものであったからだった。
「レナードT1ー014M、暗唱コードAAAB」
「ジョナサンT1ー023M、暗唱コードBCCZ」
 ハードウェアリセットには艦長と副長二人の暗唱コードが必要だった。
 レナードは最終コードを入力する。
「ZZZX、実行、TCZ」
「ハードウェアリセット、実行します。」
 一瞬艦内の照明が消え闇に包まれる。続いて非常用照明の赤い光が艦内を照らす。次に人工重力が途絶えクルー達はこれまで感じていた重さが消えたことを知る。 コンソールに灯った光がそこここで消えていく。
 重力制御系、操舵系、戦闘系、保安系、機関系、生命維持系、回路が眠っていく。
 そして中枢回路が沈黙した。
 ルナはインターフェースを通じて再びマザーコンピューターの内部に侵入した。
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