ゼロの行方
 インパルスエンジンの止まった『タイタン』は土星圏を離れたところを慣性航行していた。艦内は赤い照明から白色の通常照明に切り替わっていた。マザーコンピューターは暴走をやめ今は静かに艦を制御していた。
 レナードは医療室が爆破された直前からハイパードライブ航法のカウントダウンを始めるまでのマザーコンピューターの記憶を探ったが、その行為は徒労に終わった。マザーコンピューターの記憶バンクはその時点の情報を記録していなかったのだ。従って最後に送ったメッセージが連邦本部の誰当てのものかもわからなかった。
「しかしこのことは『ゼロ計画』が連邦が関与していることを示しています」
 ジョナサンがブリッジのクルーに向けて言った。
 このことを踏まえてこれまでの事実を整理すると次のようになる。まず連邦は誤った情報を搭載したロボットを介して『レアⅡ』に道の感染症を広げた。救難信号を受けた『タイタン』は生存者を救出することで感染症のウィルスを艦内に入れた。このとき『レアⅡ』のマザーコンピューターに接続したエレナはコンピューターウィルスに感染し、そのウィルスは『タイタン』のマザーコンピューターに入り機能を掌握した。コンピューターウィルスに感染した『タイタン』のマザーコンピューターは搭載されていなかったはずのロボット工学三原則に追加された第零条に従って医療室を爆破しドクターの生命を奪った。そしてマザーコンピューターは『タイタン』を乗っ取りハイパードライブに入ろうとした。
「これまでのことから『ゼロ計画』が第零条の条文に従って実施されていることがわかります。しかしここで疑問が二つ残ります」
「何故『レアⅡ』を壊滅させる必要があったのか。本館のマザーコンピューターは『タイタン』を破壊しなかったのか」
 ジョナサンの言葉を受けてレナードが指摘した。
「そうです。単に第零条の規定を実証するであれば何らかの理由をつけて我々が人類にの驚異であるという情報を流せばすみます。また我々が人類の驚異であるならばマザーコンピューターが本艦を爆破すればすみます」
「だが爆破はしなかった」
「その通りです。私は『ゼロ計画』には二つの側面があると思っています。一つは『レアⅡ』での事件。これは新たに開発された細菌兵器の実験であったと思われます。そしてもう一つが第零条による大量殺人。恐らくそれは戦闘によるものでしょう」
 ジョナサンはそう言い切るとクルーの顔を一人一人見つめた。
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