ゼロの行方
第四章

戦闘

「しかしこれはまだ憶測に過ぎない…」
 レナードは顎に手を当てて考え込む。
「その通りです。この考え方は『レアⅡ』の壊滅と本艦のマザーコンピューターの暴走という二つの事実に支えられているだけです」
 ジョナサンが答える。
「確証が欲しいな…」
 レナードが呟く。
 ブリッジの中は様々な電子音で満ちていた。クルーがそれぞれのコンソールをチェックしているためだった。マザーコンピューターの暴走が収まったとしてもそれが元のように働くとは限らない。そのための備えだった。
 ミサキもまた自分のコンソールをチェックしていた。ハイパードライブエンジン、インパルスエンジン、姿勢制御用のイオンエンジン、補助用のパルスエンジン、それぞれへの接続、ラダーの動作、スロットルの動き、座標設定用のインターフェース、それらは入念にチェックされ、問題なく動作することが確認された。
 チェックが終わりホッとため息をついたミサキは不意に右手からの視線を感じてそちらに視線を投げた。そこにはミサキの方に身体を捻り微笑んでいるリサの姿があった。彼女も自分の仕事が終わったらしい。
 ブリッジ内の電子音の和音が次第に少なくなり、やがて元のような静寂が訪れた。
 それを確認すると意を決したようにコムリンクのスイッチを入れた。
「デューイ、ハイパードライブエンジンに問題はないか?」
 ノイズのないクリアな音でデューイの声が返ってきた。
「順調です。いつでも跳べますよ」
 デューイの声は自信に満ちていた。
「艦長、現在は土星域の内側でのハイパードライブは禁止されています」
 リサがヘッドセットを外して言った。
「知っているさ。向こうが仕掛けてきたんだ、多少のルール違反は目を瞑ってもらおう」
 レナードはリサのウィンクしてみせる。そしてマザーコンピューターに艦内全域に自分の声が届くように指示した。
「クルー諸君、こちらは艦長のレナードT1ー014Mだ。これより本艦は『ゼロ計画』で設定された宙域へと向かう。これは非常に危険なミッションになるはずだ。そこで本艦を下船したい者は二十分後にシャトルベイに集合してくれ。戦うことも勇気だが生き延びることもまた勇気だと思う。生き延びてここで起こったことを伝えて欲しい。繰り返す、このミッションは強制ではない。下船したい者は二十分後にシャトルベイに集合してくれ。以上だ」
 レナードはそういうとこ無リンクのスイッチを切った。
 二十分後、シャトルベイには人影一つ無かった。マザーコンピューターの報告を受けるとレナードはミサキの方に視線を投げた。
「ミサキ、マザーコンピューターが設定した座標へジャンプだ」
 ミサキは暴走したマザーコンピューターが設定した座標を打ち込むとハイパードライブエンジンを接続した。
『タイタン』は弧を描き急激な加速を見せて星の海に消えた。
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