ゼロの行方
 ラウンジ…。
 薄暗い空間でアセトは一人気忙しく食器を収納棚に入れていた。強化プラスチックガラスでできた食器類はたとえ強い力で落とされても割れてしまうものではなかったが、戦闘による振動で床に散乱することは避けたいのだ。
 艦内は警戒態勢に入っているためにここに乗員の姿はない。乗員の癒しの場であるラウンジはこのような場合、必要とはされない設備だ。
 それでもコンピューターはアセトのために静かなバラードを奏でていた。
 そんな中で彼女は淡々と作業を続けている。だが彼女の胸の中はそんな姿とは裏腹に激しく波立っていた。
 アセトの失われた故郷、サイス星は連邦領域の外辺、銀河の中央部よりに位置していた。精神感応能力に長けた惑星の住人たちは独自の精神世界を形成し、連邦所属の星々の中で得意な文化を持っていた。
 それが今から一世代前に突然滅亡した。銀河の彼方から迷い込んできた遊星に惑星そのものを破壊された。
 その遊星は冷たく、感情を持つ生命の欠片すら感じられず、ただ破壊のためにのみ存在していた。サイス星の防衛軍は為す術もなく、遊星に関わった者たちは皆正気を失ってしまった。 
 連邦の救援軍が到着したときには既にサイス星の姿はなく、極少数の者たちだけが脱出することができた。
 アセトはその中の一人だった。
 そして今、彼女はあのときの遊星から感じたものと同じ感覚を感じていた。生命の欠片もなく、ただ破壊行動を冷たく実行するように造られた存在を感じていた。
 アセトの背筋に恐怖が走った。
 今まさに『タイタン』はこの恐怖と向き合おうとしているのだ。レナードはそれとどう向き合い、対処していこうとしているのか?
 アセトは一通り片付いたラウンジを後にブリッジに向かった。
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