ゼロの行方
 リフトのドアが開きアセトの視界に入ってきたのは緊張に包まれたブリッジ内部とスクリーンに映し出された虚空に浮かぶ巨大な苦労戦艦の姿だった。
 その存在は闇そのものだった。
 僅かな光さえも発することなく、また僅かな光さえも反射することはなかった。背後の星々の光が遮られることでかろうじてその輪郭を知ることができた。
 それは『タイタン』の二千メートル先で行く手を遮っていた。
「大したお出迎えじゃないか」
 スクリーンに映った船影を睨み付けながらレナードは呟いた。その肩にアセトが軽く左手をおいた。
「艦長、前方の船がフェイザーにエネルギーを送り込んでいます」
「防御フィールドを下ろせ」
『タイタン』の周囲を青い光のベールが包んでいく。インパルスエンジンにエネルギーが注がれていく。
「全艦戦闘配備」
 ブリッジの証明が黄色から赤に変わる。
 前方の船の一部に青い光が点る。
「百八十度反転、インパルスエンジン全開」
 レナードの叫びとともにミサキはインパルスエンニンを前回にした。
『タイタン』は激しい横Gを受けながら反転し巨大な船から遠ざかっていく。その直後に船体の後部を青い光が走った。
 フェイザー光が防御スクリーンに接触した衝撃が『タイタン』を揺さぶる。
「このままハイパードライブに入れ」
 レナードの指示の元、ミサキはコンソールに指を滑らせる。
『タイタン』は速度を上げ次第に光の速度に近づいていく。前方に異次元の扉が開き始めた。
「右舷より小型の宇宙船接近」
 周囲の空間をモニターしていたルナが危険を告げた。
「ミサキ、回避だ!」
 ミサキは強引に『タイタン』の進路を変える。そのために船の速度が落ち、ハイパースペースへの空間は閉じてしまった。
 小型の宇宙船は回避運動をとった『タイタン』の航路をトレースし、続けざまにフェイザー砲を打ち込んできた。さらに前方からも同型の宇宙船が接近し、『タイタン』を標的に攻撃してきた。
 前後のスクリーンが振動しブリッジ内が激しく揺れる。
「艦長、本艦は小型宇宙船に囲まれています」 ジョナサンが冷静に報告する。
「数は?」
「十隻です」
 ミサキはその会話を後方で聞きながら必死に『タイタン』を操作する。
 振動が後方から突き上げてくる。
「後方スクリーン四十パーセント減少」
 十隻の小型宇宙船は『タイタン』の後方に集まりフェイザー砲を放ってくる。
「スクリーン五十パーセント減少」
「どうやら敵はハイパードライブエンジンを狙っているようです」
 ジョナサンが『敵』という言葉を使った。 ハイパードライブエンジンは『タイタン』の左右に一基ずつ取り付けられている。その長さは船体の約半分ほどあり直径は船体の高さの四分の一ほどある。それらは翼のように展開された支柱に取り付けられている。このエンジンを戦闘の初期段階に動作不能にさせることはセオリー通りであった。
 レナードは何かに思い当たったようにコムリンクを機関室に繋いだ。
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