ゼロの行方
 ハイパードライブエンジンの唸るような音が止まりXENの内部は静寂に包まれていた。ブリッジからは土星の輪の一部が光って見える。
「ここから先は通常航行になります。地球到達は一ヶ月後ですね」
 カロンは大使の方に向いて言った。
「そうですか、暫くは退屈な旅になりそうですね」
 大使はにこやかに応える。
『ZEN』のブリッジは平常時の静けさに包まれていた。クルーの誰もがリラックスして任務に当たっていた。
 太陽系(ソル星系)は連邦の中心である、ここで緊急事態が生じることはまず無かった。 そんな中で副長のラリッサが疑問の声を上げた。
「艦長、火星ー木星間で戦闘行為が行われている形跡があります」
 メインスクリーンが長距離センサーの映像を映し出す。そこには十二の光点があり、そのうち十一の光点が目まぐるしく動いていた。「例の演習ではないのかね?」
 大使のニクスが問いかける。
「それが妙なんです。生命反応があるのは十の光点に囲まれた一点のみなんです。ほかには生命反応はありません」
 クラージュが首を傾げる。
「コンピューター制御ということか?」
「ロボット艦でしょう、大使。決断能力を持った陽電子脳を備えた宇宙船型のロボット」
「しかしロボットなら人間は攻撃できないのでは?」
「通常ならばそうです。しかし第零条を搭載しているなら話は別です」
 カロンの言葉にニクスは深く考え込んだ。 そうしている間も十一の光点は長距離センサーの中を目まぐるしく動き回っている。
 カロンはしばらくその映像を見ていたが、やがて意を決したように操舵手に命じた。
「リベルテ、あの宙域にハイパードライブだ」
「しかし艦長」
 リベルテがカロンの方に振り返る。
「我々は攻撃されている宇宙船を見過ごすことはできない。これは非常事態なんだ」
 カロンは諭すようにリベルテの肩に手を置いた。
 数秒後、『ZEN』はハイパードライブ空間に突入した。
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