ゼロの行方
「デューイ、パルスエンジンのペイロードは射出できるな?」
 レナードの言葉にコムリンクの向こう側のデューイは当惑している様子だった。
「二分もあればできますが、いったい何を?」「ペイロードを点火しないで全て射出するんだ。上手くいけばこの状況を打開できるかもしれない」
 パルスエンジンはインパルスエンジンが使用不能の際の補助エンジンとして『タイタン』に搭載されている。ペイロードを射出、点火することでその衝撃を受けて推進する方式で、ペイロードは核物質でできていた。断続的な加速とハイパードライブに必要な亜高速に達するまでにかなりの時間を要するため現在では補助用としての利用価値しかなかった。
 そのペイロードを点火させずに全て射出しようとレナードはしているのだ。
 怪訝そうな表情を見せるブリッジの面々をよそにコムリンクの向こう側のデューイはレナードの意図することが通じたかのようにペイロード射出のカウントダウンを始めた。
 二分間のカウントダウンはすぐに終わり、『タイタン』はその後方に無数のペイロードを射出した。射出されたペイロードは幕のように『タイタン』の後方に広がり十隻のロボット艦との間に割って入った。
「今だ、後方フェイザー砲発射」
 レナードの命令とともに『タイタン』は船尾方向に向かってフェイザー光線を発射した。青いフェイザー光は拡散したペイロードに引火し無数の爆発を引き起こした。その爆発に巻き込まれて八隻のロボット艦が星の欠片となって飛び散った。
 残された二隻はともに進路を変え『タイタン』の前方に大きく回り込む。ミサキはその動きを読んで艦首をロボット艦に向ける。
「光子魚雷発射!」
 レナードが叫び、ミサキが発射スイッチを入れた。
『タイタン』の艦首から二つの光点が発射されロボット艦の一隻を捉えた。ロボット艦は四方に光を放って消滅した。だが残された一隻が『タイタン』のブリッジにフェイザー法の照準を合わせた。
「ミサキ、回避だ!」
 レナードの叫ぶ声とミサキのスティックを操作する動作が同時に駆け抜ける。
『タイタン』が船体に捻りを加えながら進路を変えていく。だがロボット艦はフェイザー砲を『タイタン』に叩きつけてきた。
 フェイザーを受ける防御スクリーンが激しく振動した。
「スクリーン八十パーセント消失。これ以上は受けきれません」
 ジョナサンが冷静に報告する。
「ミサキ振り切れ!」
「やっています!」
『タイタン』の船体がきしむ。
 その時、別の方向から放たれた光子魚雷がロボット艦を捉えた。
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