ゼロの行方
 巨大なロボット艦『ネイト』は一縷の隙もなかった。圧倒的な火器と鉄壁のスクリーンの組み合わせによってその船体の大きさとは裏腹にあらゆる攻撃を退け、あらゆる防御を貫いてきた。
『タイタン』も『ZEN』も『ネイト』の敵ではなかった。両艦は既に防御スクリーンを失い、ハイパードライブエンジンを失っていた。それでも『ネイト』は攻撃の手を緩めず、両艦のインパルスエンジンに執拗な攻撃を加えていた。
「被害状況!」
 火花の散る『タイタン』のブリッジ、レナードの叫び声が響く。
「後部フェイザー砲、後部光子魚雷発射口、全部フェイザー砲、被弾により使用不能。全部光子魚雷残弾六十。デッキG,H,I、J、破損。死者八十。負傷者多数。Dデッキに設置した仮説医療室に負傷者を収容中。ホログラムドクターが対応中」
 ジョナサンが自分のディスプレイに映し出される情報を読み上げる。
「ドクターを失ったことが悔やまれます」
 ジョナサンの言葉に一同が目を伏せる。
「ルナ、まだ敵の機能を停止できないのか?」「コンタクトは完了しています。けれども機能停止は深い基本的な部分に存在しているので実行ができません」
 眉間に皺を寄せてルナが答える。
 ひときわ大きな振動が『タイタン』の船体を駆け抜ける。
「艦長、インパルスエンジンが被弾した」
 機関室にいるデューイがコムリンク越しに叫んだ。これまで『タイタン』を力強く押し続けていた推力がフッとなくなった。
 雨のように降り注いでいた『ネイト』のフェイザー砲がその口を閉じた。
『ZEN』もまたインパルスエンジンを撃ち抜かれ沈黙していた。
「ルナ…」
 もはや希望はルナだけだった。
 しかし彼女の作業は困難を極めていることをその表情が告げていた。
 そのとき、それまでレナードの背もたれに必死にしがみついて耐えてきていたアセトが口を開いた。
「眠らせてみてはどうかしら?」
「ロボットは眠りません」
 ルナはアセトの言葉を冷たく一蹴した。
 だが、そのやりとりを聞いていたミサキは何かに思い当たったようにルナの方に振り返った。
「ルナ、スリープモードだ。スリープモードに移行させろ」
 スリープモード、それはどのロボットも搭載しているものだった。内蔵バッテリーの残存電力が乏しくなり、外部からの電力供給が望めない場合、ロボットは自らの陽電子脳を守るために必要最低限の回路にのみ電力を供給し、他の全ての回路への電力供給を遮断するモードだった。
「スリープモード、了解」
 ルナは『ネイト』の陽電子脳へスリープモード移行のコマンドを送った。
『ネイト』は数発のフェイザーを『タイタン』に発した後、完全に沈黙した。
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