黒竜と魔法使い。~それは、恋に落ちる瞬間~
* * * *
赤の竜の炎で焼けただれた青竜の身体は悲惨なもので…。
かろうじて息はあり、赤竜ディウクリスの治癒力で傷を癒してはいたが…。
「……エウセリウ…」
青竜は黒竜のつぶやきに黄金の瞳を細めた。
「なんてバカなことを…。むしろ、氷漬けにしてしまえばいいものを…」
「ベルデウィウス、てめぇ!!」
「……丸焼きにしておいて声を上げる資格があるのか。貴様に」
「うぐぐぐ…」
「私とて、竜だがエウセリウを治すことはできない…」
赤竜によって丸焼きとされた青竜を助けることができない…。
沈痛な表情を浮かべる黒竜に、青竜はかすれた声で告げた。
「この身は、…っよく永らえた…」
赤竜はおろおろと慌てだした。青竜の言おうとしていることが分かったのだ。
「……このまま、空へ…還ること、嬉しく…」
「………エウセリウ…、俺…っ」
赤竜がぼろぼろと涙をこぼし始めた。
空へ還る――それは、竜の死を意味する。
長らく生き続けた竜は、空へと還る――。『空』は竜の故郷でもあり、古の母でもある。
竜の住む地は、大地と空の間――『狭間』と呼ばれる空間にあり、狭間は竜にとっての『大地』である。
狭間で生きる竜には、人間たちの干渉を受けず穏やかにその長き生を過ごすのだ。
「ディウクリス、人に近しい竜を知らないか?」
ディウクリスは涙を止め、ベルデウィウスを見た。
人間?、と。
「人間の魔法使いの中で秀でた治癒能力者がいるはずだ。その者に癒してもらうほかない…エウセリウ、悪いが、死ぬならばこの赤竜を氷漬けにしてから死んでくれ」
「…ヒドイ、お前、ヒドイッ…」
言葉の凶器に涙をこぼした赤竜の腹を尻尾でしたたか殴る。
「貴様はエウセリウの痛みを和らげることに専念しろ。いいな」
「ぅう…わ、わかっ…たっ」
痛みをこらえて言葉を返す赤竜。
「で、貴様の知る竜はいるか?」
「…いてて…さあ、どうだろう…。俺の知る竜って言うと『花嫁』を持っている奴らだけど…魔法使いなら南の魔法使いの『都』カールセンのやつらに聞けばいいんじゃないか?」
「カールセンか……」
嫌そうに顔をゆがめた黒竜に、赤竜は言った。
「それか、セント・リリエル」
「…一日で何とかする。ディウクリス、エウセリウを頼むぞ」
「ああ…。っベルデウィウス…、悪い…宜しく頼むっ!…いてて…」
すがるような声 (というか、痛みをこらえた声)に、ベルデウィウスは目を閉じた。