黒竜と魔法使い。~それは、恋に落ちる瞬間~
魔法使い
* * * *
半日、治癒できる魔法使いを求めて大陸を回った。
竜が現れたことに驚愕する魔法使いたちとその中の僅かな魔法使いの『貪欲』眼差しに嫌悪を抱かずにはいれらず、身の危険を感じる前に早々に立ち去る。
時間稼ぎに魔法使いを探す手伝いを申し出る魔法使いたちもいたが、貪欲な眼差しを持つ魔法使いを信用するほど『竜』は愚かではない。
半日周ったが、竜を癒すことのできる高位の魔法使いはいなかった。
最後に回った塔の壮年の魔法使いと出会い、その魔法使いが言った。
「高位の治癒魔法を使える魔法使いですか…?」
険しい顔をして、そして告げる。
「残念ながら、我が塔にもそのような者はおりません」
お力になれず申し訳ございません。
その魔法使いは、魔法使いでありながら、その瞳は『力』を求めてはいなかった。
世界の真理を追究し、己の魔法を磨き上げることを好む魔法使いがいる中、魔法を研究ではなく『誰かの為』と心に決めている者の眼差しだった。
魔法使いの言葉に落胆を隠せずにいたベルデウィウスは、その男の次の言葉に可能性を見出した。
「治癒魔法ではなく、薬はどうでしょうか?腕の良い魔法研究者《ディーン》を知っております」
だが、魔法研究者《ディーン》という言葉にその黄金の瞳が細められ、魔法使いは畏縮した。
魔法研究者《ディーン》とは、あの貪欲な眼差しを向けた者たちのことだ。
魔法使いの中でも、あまり褒められた部類のものではない。
そう認識しているベルデウィウスは内心毒づく。
だが、
「その魔法研究者《ディーン》は変わり者ですが、悪い人間ではありません」
魔法使いの苦笑い、と言うよりも、脛を蹴られたような沈痛な表情に言葉を飲む。
さて、どうすべきか…。
刻々と迫る、赤竜との約束の時間。青竜の容体も気になる。
あまり好ましくはないが、その変わり者の魔法研究者《ディーン》に会ってみよう。
(他に手がないのだから)
そうベルデウィウスは割り切って魔法使いにその者の居場所を問うと、
「東の森です。中央都の魔法学院《セント・リリエル》の生徒なのですが、東の森の塔へこもりっぱなしなのです」
今度は本当の苦笑い。
そして、
「黒竜様、一つよろしいですか。あの者と会うには、そのお姿は非常にまずいのです。人の姿をとることは可能でしょうか?」
魔法使いは、ベルデウィウスにそう告げた。
そして、
「そして、決して―――貴方様が『竜』だと告げてはなりません」
それは――その『魔法研究者《ディーン》』があまりにも『竜』には危険だと言っているようなもので。
「………」
会う事には決めたが、魔法使いの言葉にやはり止めようかと本気でベルデウィウスは考えた。