太陽の欠片
01.欠けた太陽
雪が降る中、冬に似合わない波の音が響く。
季節外れの広い海を目の前に俺はすっかりと雪で覆われてしまった浜辺で一人、ぽつんと座っていた。

「あ、いたいた、亮ちゃーん!」

背後からした声に振り返ると、元気良くこちらに向かって手を振る女の姿があった。
彼女を見ると、俺の頬が少しだけ緩んだ。
駆け寄ってくる彼女を迎えるのに、俺は立ち上がり、手を振った。

「もう、待っててって言ったのに、何で一人で行っちゃうかなぁ」

「悪い悪い、どうしても此処に来たくてさ」

頬を膨らませながらも優しく、そっか、と微笑んだ彼女に俺は目を細めた。
俺が知る彼女よりも大人びた、その姿に10年という大きな時間の穴を感じさせられた。

「大人っぽくなったな、夏希は」

「そう、かな?」

照れくさそうに目を逸らす彼女を自分の腕の中に引き込む。

「亮ちゃんも、…かっこよくなった」

「ありがとう」

夏希の髪に顔を埋める。
ふわりと香る匂いは今も昔も変わらずに少し安心した。

「ねぇ、亮ちゃん」

「どうした?」

俺の服をぎゅっと掴んで夏希が言う。

「覚えてる…?10年前のあの日のこと」

「…あぁ」

忘れる筈のない古ぼけた記憶が脳裏にそっと蘇ってくる。


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