【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
一人の花火大会
――……。
……。
17時過ぎ。
「じゃあ、出掛けてくる。
帰りは何時になるかわかんねーから」
靴を履きながら美奈に声をかけ、立ち上がる。と、その直後。
「はい、忘れ物」
「…は?」
……何故か、美奈が俺のカバンをニコニコと差し出している。
「今日そのまま向こうに帰っていいよー」
「いや、え?なんでそうなる?」
「だってさぁ、アンタの宿題大量過ぎるんだもん。
私、それを見てるだけで頭クラクラしちゃってどうしようもないから。
だから向こうに帰って、朔也くんに教えてもらってね」
あー…うん、確かにその方がいいかもしれない。
課題が終わる気配すら無い状態だから、あっちで朔也に教えてもらった方がいい。
でも…これから花火大会の会場に行くのに、この大きくてパンパンのカバンを持っていくか普通?
「あのさ、今日はここに帰ってきて、明日向こうに行くっつーのでいいじゃん」
「ダメよぉ、明日になったらアンタのこと引き止めたくなっちゃうもん」
「…自由奔放だな」
「うん、よく言われる」
ニコッと笑う美奈は、俺にカバンを押し付けてひらひらと手を振った。
「今年の夏はバタバタしちゃってあんまり話せなかったけど、来年はもっとちゃんと話そうね。
高校卒業したら家族の時間はもっと減っちゃうだろうし、話せる時に色々話しとかなきゃね」
「あ…うん」
「今年の残りの夏休みは、真由ちゃんと楽しんでね。
あ、宿題はちゃんとするのよー? 全部終わったら、ちゃんと電話で報告すること。
じゃ、またねー」
そう言った美奈は、ちょっとだけ寂しそうな顔してた。
だけど、笑ってる。
だから俺も笑って、小さく手を振った。
そして…、
「色々、ありがとう」
…美奈にそう伝え、横山家をあとにした。