【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
……。
混雑する電車に乗り、花火大会の会場へと向かう。
浴衣姿の女が多く、もう既に“祭り”だ。
真由も浴衣かな? なんて思いながら、真由に似た背格好の女をぼんやりと見つめる。
…アイツはきっと、桜色の浴衣が似合う。
桜は、アイツらしい色だ。
小さくて、儚くて、脆くもあり、強くもある。
それがアイツなんだと思う。
そのアイツを守るのは、この俺なんだ。
そんなことを思いながら、ゆっくりゆっくりと目を伏せた。
……。
花火大会の会場に到着したのは、17時25分。
打ち上げは18時からだから、もうかなりの人が集まっている。
「龍輝」
そこで声をかけてきたのは、朔也だった。
「大雅と真由、もう向かってるよ。 …て言うか、そのカバン何?」
「明日からまた一人暮らし再開。 残りの課題、指導よろしく」
「あー…なるほど。
貸して。俺が預かっとく」
「ん」
朔也にカバンを預け、携帯を開いて電源を入れる。けど…、
「…え、繋がんねーじゃん」
…大量の人が一ヶ所に集まっているせいか、電話会社が通話やメール送受信を制限してるらしい。
何度試しても、真由の携帯にも大雅の携帯にも繋がらない。