【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
…ほんと、すげー焦ってた。
つーか、絶望してた。
今日真由と会えなかったら、このまま一生会えないんじゃないか?と、そんなことを考えちまったし。
…マジで、山田に感謝だな。
「…やっぱりこういうのは嫌だった?」
固まったままの真由を見つめ、静かに問う。
その間も花火は次々と打ち上げられ、辺りからは歓声やため息が漏れている。
そんな中で、真由は目を潤ませて微笑んだ。
「私…、龍輝さんと一緒に見たいなってずっと思った。
だけど龍輝さんと連絡が取れなくて、ほんとは凄く怖くて、不安で…」
「…うん」
「…今日龍輝さんに会えてよかった。
私っ…いま、凄く幸せです…」
ドォン!! と打ち上げられる花火の音に、真由の小さな声はほとんど聞こえなかったけど、放たれた言葉や真由の想いが、不思議と理解出来た。
今日会えてよかった。
凄く、幸せ。
俺自身がそう思っているから、理解出来たのかもしれない。
「…俺も、幸せだ」
真由の髪を撫で、微笑みながらそう伝えた。
そして…――、
ほんの少し躊躇いながらも、想いは止められず…そのままそっと、真由の唇に自分の唇を重ねた。
…ここに居る全員が、空だけを見ているわけじゃないことは知っている。
誰かは必ず俺たちに気付き、そして何かを思うはずだ。
その思いが「憧れ」なのか「照れ」なのか「嫌悪感」なのか、または別の何かなのかは、到底わからないけれど。
だけどそれでも俺たちは、大空に咲く花たちの下で、お互いを求めて唇を重ねていた。