【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
「実はさぁ、夏休みの課題が大量すぎて俺一人じゃ無理だってことに気付いたんだよ」
いや、美奈がそれに気付いた。と言った方が正しいか。
俺自身は、「気付いていたけれど諦めていた状態」だったから。
「授業サボってたツケだなぁ。
英語がまったくわかんねー!!ってなってさ、それをやるために早めに戻った。つーか戻れって言われたわけ」
「あー…なるほど、それで朔也さんに教えてもらうんだ?」
「そ」
パスタをフォークでクルクルッとし、それからまた時計を見る。
…朔也に教えてもらえるのは、マジですげー感謝してるけど…、でもアイツ、結構なスパルタ野郎なんだよなぁ…。
「はぁ…もうすぐ来るんだよなぁ、あの鬼教師」
「朔也さんは優しいじゃないですかー」
「いーや、アレはお前に優しいだけで普段はこえーぞ」
そう、真由には優しい。
けど、俺に対しては優しさのやの字すらない厳しさだ。
旧知の仲だからかもしれないけど…、もうちょっと優しく教えてくれてもいいよなぁ。
「…実はな、アイツに睨まれたら最後、生きては帰れないという伝説が…――」
「なに馬鹿なこと言ってんだよ龍輝」
「わぁっ!?」
朔也…!? いつの間に来てたんだ!?
ドアの開く音も後ろに立ってる気配も、何も感じなかったのに…コイツ、マジで忍者か…?
「龍輝ぃ、朔ちゃんは鬼じゃなくて冷血なんだよ」
と、その後ろでくつくつと笑う大雅。
あー…ヤバい、大雅の気配すらわかんなかった。
真由の前だからって気ぃ抜きすぎてたか?
しかしほんっと…マジでビビった。
まだ心臓バクバク言ってる…。
それを落ち着かせるために、コップに入った水を飲み干し、息を吐く。
その間にも朔也と大雅は話を進めていて、ニコニコ顔の大雅に対し、朔也は凄く嫌そうな顔をした。
それを見つつ、いつもと同じように「真由は俺のだからな?」なんて言うと、大雅はますます楽しそうに笑って、朔也は予想通りの呆れ顔。
だけどそれでも、朔也はほんの少しだけ笑顔を見せた。