【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
……。
…それからどれくらい経っただろうか。
コンコン とドアを叩く音がして、誰かが入ってきた。
「もう寝た?」
優しい声の、直人さん。
「…起きてるよ」
その声に小さく返事をして、布団から出る。
「龍輝、美奈のことだけど…突然色々な話をしてしまって、悪かったな」
隣に座った直人さんは、まるで小さな子供を言い聞かせるように俺の髪を撫でた。
「アイツは本当に龍輝のことが心配なんだよ。
だからつい、必要以上のことまで言ってしまうんだ」
「…知ってる」
……ちゃんとわかってるよ。
美奈は昔から、いつも本気だった。
いつも本気で俺を想ってくれてて、誰よりも俺をわかってくれてる人なんだ。
「…本当の母親よりも、ずっとずっと俺を想ってくれてる人だってわかってる」
そう言った俺に、直人さんは小さく小さく頷いた。
「それ、美奈にちゃんと伝えてきな?」
「…でも」
「いいからいいから。 俺は哲のとこに居るよ」
にっこりと笑い、俺の背中をトンと押す。
「俺はね、お前に無理はさせたくない。
けれど、お前が居ると楽しいよ」
それだけを言い、直人さんはニコニコのまま哲の寝てる部屋へと向かった。
……楽しい、か。
「…俺も楽しいよ」
マジで楽しいし、“家族”で居られる時間は、すげー幸せだよ。
でも…。
…でも俺が居たら、やっぱりみんなの邪魔しちゃうじゃん。
“家族”だけど、ホンモノじゃない。
ホンモノのように過ごしているけれど、やっぱり違うんだ。
「…そんな状態で、これ以上どうすればいいんだよ」
……わからないままに歩き出し、答えを求めるようにと、美奈のところへ向かった。