【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐


……。


大雅がシャワーから戻ってきたから、俺もシャワーを浴びてくることにした。

頭ん中では、朔也のさっきの言葉が何度も繰り返されている。




“俺、実は忍者なんだよね。”


…って、それじゃなくて。




“他人(ひと)にはあまり自分のことを話さず、一人で悩んでる。
だけど周りのことを思い、悩んでる姿さえ見せない。”


…そう、こっち。

アイツが言ったこと、結構当たってるんだよな…。


家族のこととか、真由のこととか…、ほんとはいっぱいいっぱい悩んでる。
だけど誰にも言わず、一人で解決しようとする。

そして、「俺は大丈夫」って顔で笑う。


アイツ、ほんとによく見てるな…。

なのに俺は、アイツの何を知ってるんだろう?




「…なんも知らねーな…」


熱めのシャワーを浴びながら、ぼんやりと鏡を見つめる。


「…きっとアイツは、真由のこともちゃんと見てるんだろうな…」


俺の知らないことや気付かないことを、アイツはきっと知ってるし気付くはず。


俺は真由を傷つけてばかりだけど、朔也ならきっと真由を泣かせたりしないんだろうな…。




「………」


心臓の辺りが、ギュッと締め付けられる。
「考えるな考えるな」と思っているのに、思考は止まらない。




「…余計なことは、考えるな」


鏡の向こうに居る自分を見つめつつ、そう言い聞かせる。


これから俺は、沢良木 涼太に会う。
そしてきっと、ほぼ同時に真由にも会う。

…どうなっていくかはわからないけれど、だけどそれでも、行くしかない。




深呼吸を何度も繰り返し、最後にふっと強く息を吐き出してから風呂場を後にした。




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