【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
そう聞いた時、真由は少しだけ困ったような顔をした。
それでも静かに、そっと言う。
「えっと…、沢良木 涼太(サワラギ リョウタ)くん、です」
え?
「え、沢良木?…マジで?」
「へ? あ、はい」
…沢良木。
まさか、“あの”沢良木先輩の、関係者…?
「龍輝さん?」
「………」
……いや、そうだとしても、それがどうした?
沢良木先輩とアイツが親戚かなんかだとしても、俺には関係無いし、真由にも関係無い。
…だから、落ち着け。
真由の元彼氏が「沢良木」と言う名だった。ただそれだけだ。
…昔の俺と沢良木先輩、その“事実”にあの男は関係無いんだ。
……落ち着け。
こんなところで動揺するな。
真由との時間に、「沢良木」の名前なんて必要無い。
「…いや、なんでもない。
珍しい名前だな、と思っただけ」
「…本当に、それだけ?」
「おー」
……これでいい。 大丈夫。
真由との時間を今までと同じように楽しめばいいんだ。
大丈夫。 大丈夫…。
「…あの、龍輝さん。
何かあるなら、言ってください」
……大丈夫。
真由に問われるまでは、そう思ってた。