【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
俺と真由だけ、か…。
「…朔也はさ、なんで俺と居てくれんの?」
「え?」
「俺がお前なら、絶対一緒になんて居られない。
だって、好きな女が“俺”じゃない別の男を見て笑ってんだぞ?
…そんなの、俺は見ていたくない」
朔也が堪えてきた場面で、俺はきっと暴走してしまう。
「お前は、どうして平気な顔していられる?」
そう言った俺に、朔也は少しだけ空を見上げた。
何かを考えるような、答えを探しているような、そんな時間が10秒ほど続いた後、俺を見た。
「好きだから一緒に居られる」
「え…?」
「お前のことが好きだから、そばに居たいと思ってる」
…好き?
「…お前、俺に惚れてんの…?」
恐る恐る問うと、朔也はふっと笑って首を横に振った。
「そういう意味じゃなくて、友達として好き。ってこと。
大雅や健吾だって、お前のことが好きだから一緒に居るんだろ? それと同じだよ」
「あー…うん、なんとなく理解した。
けど、それでもやっぱり、俺がお前なら絶対無理だな…」
朔也たちのことは好きだけどさ。
でも、同じ女を好きになって、俺が朔也の立場だったら…やっぱり無理だ。
「…お前はほんと、すげーよ」
「それって、俺のこと馬鹿にしてる?」
「そんなつもりねぇって。
ただ純粋に、すげーって思うんだよ。
真由を見て笑って普通に喋れる。 俺には絶対出来ない」
遠くに座っている沢良木をぼんやりと見つめる俺に、朔也はまた小さく笑った。
「俺は、龍輝と笑い合ってる真由が好きで、真由と笑い合ってる龍輝が好きなんだよ。
…だけど、龍輝のことで苦しんでる真由を見ると、抱き締めたくなるし、俺のモノにしたくなる。
別に俺は、凄くなんかないよ。
正直言えば、いつ壊れるか…、いつ壊すかわからない状態のまま生きてる」
「………」
「俺に、壊させるな」
そう言った朔也は、ただ真っ直ぐに俺を見つめた。
…俺に「お願い」をしているんじゃなくて、「命令」している。
強い強い想いが、そこにある…。
「…無理かもしれない、けど…、頑張るよ」
「…だからそこはさ、“任せとけ”って言うべきだろ?
学園祭の時と同じこと言ってどうするんだよ」
あー…確かに俺、あの時と同じこと言ってる…。
朔也が真由にコクった後の、あの時と同じ…。
「えっと…、任せとけ。って自信を持って言えるように、頑張っていくよ」
迷いながら出した言葉に、朔也は柔らかな笑顔で小さく小さく頷いた。