【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
そう聞いた俺に、沢良木はすぐに言葉を出した。
「…アイツと別れた後、色んな女と付き合いました。 それこそ、その日だけの関係とか…色々と。
だけどこの前アイツと水族館で再会した時、すげー綺麗になってたから驚いて…なんかこう、悔しかったんです」
「………」
「…あの時は、笠井さんの彼女だなんて思ってなくて…。
えっと…メガネの人をアイツの彼氏だと思ってたので、なんつーか…、“あんな奴より俺の方が上だろ?”と、馬鹿みたいなことを思ってしまった、んです…。
奪うのがカッコイイ。と言うか…“アイツは俺のとこに戻ってくる”という、変な自信がありました」
「…自信があったから、キスすれば戻ってくると思ったわけか」
「…すみません…」
すっかり身を縮ませている沢良木。
真由には見えない角度で静かに話を続けていく。
「本気かどうかと聞かれると、本気じゃなかった。が答えです。
俺はただ、アイツを奪いたかった。
綺麗になったアイツを、俺のそばに置いておきたかった。
……こんな言い方してすみません。
でも本当に、アイツがこんなに綺麗になるなんて思わなくて…」
「…昔の俺だったら、いま確実にぶん殴ってる」
「……すみません」
綺麗になったからやり直す。
綺麗になったから、そばに置いておきたい。
…馬鹿じゃねーの。
「…つーか、俺の女を気安く“アイツ”って呼ぶな。
次言ったらマジで殺す」
低くそう言うと、沢良木はまた「すみません…」を繰り返した。
相変わらずの怯えた表情に舌打ちで応え、髪の毛をかき上げる。
「…なんで本気じゃねーのにキスしたんだよ。
本気で想ってる奴は自分の気持ちを押し殺して生きてんのに、お前はなんで奪う?」
「え…?」
「……いや、なんでもない。
お前に言ったってしょうがないよな」
…落ち着け。 冷静になれ。
何度も何度もそう言い聞かせ、深く深く息を吐き出した。
そして、ポツリと言う。
「…俺と真由は、去年のクリスマスに出会ったんだ」