海宝堂〜海の皇女〜
「この国で、一部の者しか知らない予言だ。

『20年後の満月の日…皇女は戻り、その宿命をまっとうするであろう…』

とな…」

「宿命…って…
だって…これから、冒険しようって…みんなと一緒に……なのに…なのに…」

シーファの頬を伝って、床で涙が弾けた。
アリアはシーファの頭を抱え、髪を撫でた。

「ごめんなさい…本当は、何も言わないで見送るつもりだったの…
ヌルドも何故か予言を知っていて、今日みたいに村に兵士を送り込んでいた…だから、すぐに発たせるつもりだった…
でも…立派に成長したあなたを見て…母だと…あなたの母だと、名乗らずにはいられなかったの!
本当にごめんなさい…」

愛情と涙が頭の上から降ってくる。
耳に感じる母の心臓の鼓動…遠く、生まれる前、いつもこの音と一緒だった。

シーファはアリアの体に腕を回し、子供のようにしがみついた。

「………王妃さ………………母…上……」

シーファの小さな言葉にアリアは目を丸くした。

「……母と…呼んでくれるのですか?…シルフェリア…」

「……シルフェリア……」

「……父上…」

セイドは抱き合う2人を一緒に抱き締めた。


「2人は…間違いなく…私の、両親です…
でも…私は、もう…シルフェリアには…戻りたくないんです…だから…」

「わかっておる、私達はお前が父、母と呼んでくれただけで十分。
ヌルドが来ぬうちに、この国を発つといい。」

セイドは頭を撫で、アリアは頬を両手で包みこんだ。
2人共、優しく微笑んでいた。

「…ありがとうございます。」

「お前が幸せそうで良かった…
お前を育ててくれた人達や仲間…リュート、ニーナ、ガルに感謝しよう。
見ていて、とても気持ちのいい仲間に出会ったのだな。」

「はい。」

シーファは2人から離れ、部屋に急いで戻ろうと、ドアに手をかけたその時だった…

――ドォン―――

低く響く爆音が、城全体を揺すった。
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