海宝堂〜海の皇女〜
「…いってぇ〜
何だよ、あの馬鹿力…」

崩れた壁の中からリュートが顔を出した。
その目の前でアーターが鼻息荒く、こちらを睨んでいる。

「なんなの…あいつ…
急に凶暴になった…」

アーターの急激な変化にニーナは眉をしかめ、立ち上がる。
シーファも無事だ。

「――くっ!」

ガルがビュウに蹴り飛ばされてくる。
頬からは一筋の血。

フーッとこちらを威嚇するアーターにヌルドがそっと手をかける。

「アーターは昔、背中に大火傷を負いましてね…火の気には、敏感なんですよ。
そっちの女、火を使おうとしたんじゃないですか?」

敏感にもほどがある、まだ構えてもいないのに…
ニーナの額に冷や汗が流れた。

「さあ、こちらの力はわかったでしょう。
帰りたいのなら、そちらの女性を置いてさっさと帰りなさい。」

「セイド王とアリア王妃はっ!?」

「おみえになりますよ。
あちらに…」

2人は並んで倒れていた。

「アーターは興奮すると力の加減ができなくてね…
つい、殴ってしまったようですね。」

「お前らっ!
2人はこの国の王様だろっ!んなことしていいと思ってんのかっ!?」

リュートがヌルドに向かって吠えるが、ヌルドの表情は変わらない。

「この国の王…?
たまたま王家に生まれただけの王など、いないに等しいものですよ。
この国の王には、私こそがふさわしい。」

ヌルドは自分に酔いしれ、両手を広げて高らかに言った。

「ふざけるなっ!
あなたなんかに国が治められるはずがないっ!」

「いいえ、私の理想の国はまさに自然の海そのもの!
この弱肉強食の海の中、この国だけが、弱者を擁護し、強者を外へと追いやる。
不自然極まりないこの国を私が正しい姿、弱肉強食の世界に変えてあげるのです。」

「違うっ!
強き者は力を合わせ、弱き者を助け守り、共に生きていく事こそが、『人』なのです。」

シーファの言葉にヌルドは確信の笑いを浮かべた。

「…やはり、あなたは思った通りの人のようだ。」

シーファはしまったと口を抑えたがすでに遅く、ビュウとアーターがこちらに飛び出してきた。
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